狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『屋根裏の美少年/西尾維新』です。
西尾維新 さんの『屋根裏の美少年』は「美少年シリーズ」第三作! 今回は天才児くん――「美術のソーサク」こと指輪創作 回ですか。無口なキャラだという認識は持っていたのですが「一冊につき二言しか喋らない」縛りがあったとは気づかず(忘れているだけ? 既刊を読み返すべし!)。西尾維新 さんの描く天才は魅力的なキャラばかりですね。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
晴れて美少年探偵団の新メンバーになった「美観のマユミ」こと瞳島眉美。団長・双頭院学の召集により美術室兼探偵団事務所の改装を手伝うはめになる。しかし、天井裏から発見された三十三枚の絵のおかげで作業は一時中断。描いた主も分からない奇妙な絵画は七年前に学園で発生した不可能誘拐事件に結びつき……? 美しい事件に、より美しい解決をもたらす美少年シリーズ第三作!
0 まえがき
眉美、『フランダースの犬』でひねくれてみる。
1 探偵団召集令
前作『ぺてん師と空気男と美少年』事件を受けて、咲口先輩から「子供ケータイ」を支給されていた眉美に、美少年探偵団の召集令が伝えられる。来いと言われれば行きたくなくなる眉美は逃走を図るも――不良くんと生足くんによって捕獲される。
2 天井絵
召集令の用件は、美少年探偵団の事務所として不法占拠している美術室の、天井絵作成のお手伝いだった。
3 美少年探偵団のこと
美少年探偵団の概要説明。
4 天井裏の冒険
天井板が抜ける。ロフト、異世界への入り口、お宝……、美観のマユミの視力を使って調査。その結果、三十三枚の絵画が発見される。
5 発見された絵画の違和感
発見された絵画には違和感がある。眉美は半分、不良くんは三分の一、咲口先輩は八割、生足くんは二十二枚の絵に違和感を覚え、そしてリーダーには違和感なし。違和感とは欠落感――その正体は。
6 芸術家の奇行
天才児くんにより違和感の正体が判明する。ミレーの『落穂拾い』、フラゴナールの『ブランコ』、ミレイの『オフィーリア』――違和感の正体は、有名絵画から人の姿が消えていたということ。絵を知らなければ違和感を感じることはできない、ということで、不良くんよりも教養があったと喜ぶ眉美に、有名絵画を一つも知らなかったリーダーが疑問を呈する。
7 描かれなかった絵画
リーダーの疑問とは、人の消えた三十三枚の有名絵画の中に、ダ・ヴィンチの『モナリザ』がないということ。同じくムンクの『叫び』も。題材を世界的名画からとっているのなら、これらがないのは不自然なようにも――下校チャイムにより、謎解きは持ち帰りの宿題に……。
- 誰がどうして人の消えた名画を描いたのか?
- 何のために天井裏にそれらを隠したのか?
- 三十三枚の名画の選定基準とは?
(そこから作者を特定できればすべて解決?)
8 帰路
用心のため、不良くんと生足くんに自宅まで送られる眉美は、人の姿の消えた名画を、名画から人が攫われた誘拐事件にたとえる。そこにはなんらかのメッセージが込められているのかもしれない――帰宅した眉美が、自室で着替えを終えると、子供ケータイの着信音がなる。相手は前作で因縁のある髪飾中学、生徒会長の札槻嘘だった。
9 推理合戦
翌日の放課後、事務所である美術室にて、美少年探偵団の推理合戦。まずはリーダーから。発見された三十三枚の絵画は、人の姿を除いて描き直されたものではなく、じつはこれこそがオリジナル。いま名画とされているもののほうが、これをもとに描かれているのだ――といった大胆なもの。んなわけない。
10 不良くんの推理・生足くんの推理
つぎに不良くんの推理。名画に工夫を凝らしたオマージュ作品なのでは――真っ当な推理だが、『モナリザ』が含まれていない不自然さの説明はつかず。続いて生足くんの推理。作者は人間を描くのが苦手だったから。理解しやすい推理だが、美少年探偵団らしい美しさがない。
11 瞳島眉美の推理?
眉美の推理(?)は、作者には人間の姿が見えなかったのでは……、というもの。ゆえに作者は名画をそのまま模写したつもりでも、結果として人の姿が消えてしまった。精神的でなく機能的(視力)の問題とするなら……、眉美のような良過ぎる視力の持ち主だったなら、背景に上塗りされている人物のみならず、背景をも透視してしまったケースも考えられ、それが『モナリザ』だったのでは? だから『モナリザ』を描くことができなかった。犯罪者の詭弁のようですね、とは咲口先輩の指摘。併せて、どうして? の謎も未解決のまま。
12 天才児くんの推理
「絵は、これで全部じゃない」
「最低でもあと、三十三枚ある」
――ここで「一冊につき二言しか喋らない」という縛りがある天才児くんの貴重な二言。最後になった咲口先輩は、なんと作者を特定することに成功していた。
13 永久井こわ子
それは七年前に退職している美術教師、永久井こわ子だった。画家としても名を馳せていた彼女の作品が講堂にある――ということで、美少年探偵団の面々は講堂へと移動する。
14 講堂の中の講堂
『講堂の中の講堂』と題された永久井こわ子の作品は、千号二千号サイズの、規格外の巨大な絵だった。無人の講堂の描かれた絵の中に、また無人の講堂の絵が描かれていて、その絵の中の無人の講堂の描かれた絵の中に、また――という無限ループ。その絵の前で、咲口先輩が作者を特定した経緯を語り始める。
15 七年前の犯行予告
学園側に無許可で写生大会を開催し、ひとクラスまとめて海外へ……、絵のために、勝手に校舎の扉や窓を取りつけたり、取り除いたり――永久井こわ子は問題教師だった。七年前、学園が芸術系の授業を撤廃する決定を下したとき、この美術教師が強硬に反対した。そして学園を脅迫した――曰く、「私はこの学校の生徒、全員を誘拐する」
16 実行された大誘拐
永久井こわ子作『講堂の中の講堂』の絵には、当初、生徒総会を行う全校生徒が描かれていた。現在は無人の講堂があるばかりだ――大誘拐は実行された。
17 大きな絵画の大きな誘拐
『講堂の中の講堂』は、美術室の天井裏から見つかった三十三枚の絵画との類似例といえる。どうやら作者は永久井こわ子と考えて間違いない。しかし永久井こわ子は現在行方不明。さらに新たな謎が浮上する。
- 彼女はいったいどのようにして巨大な絵画のすり替えを行ったのか?
18 ボトルシップ
ボトルシップを作るように、材料をばらばらに持ち込み、講堂の中で「無人の『講堂の中の講堂』」の作成を行い、「有人の『講堂の中の講堂』」と入れ替えたと考えるのが普通だが、そんな大掛かりな作業を学園側に気づかれずに行うことは不可能だ。製作にも1か月の時間がかかる――不可能犯罪。結局謎が増えてしまっただけで、解決はまたしても宿題となり、翌早朝へ持ち越し。
19 密会
帰り道、今日は不良くんと生足くんを撒くことに成功した眉美は、バス停で札槻くんと落ち合う。
20 札槻嘘のこと
札槻くんの昨日の電話の用件は、『ぺてん師と空気男と美少年』事件の際の、キーアイテムであるところの一万円札、眉美が返しそびれていた四万円を返してほしいということだった。眉美はあの事件で残された謎が気がかりだった。ゆえに札槻くんとの密会に応じる。
21 密会2
その謎は、「見えない服」に対する「見えるコンタクトレンズ」だったとあっさり判明。昨日の流れのままに、眉美は『講堂の中の講堂』の謎についても、それとなく(?)札槻くんに相談する。「大切なものは目には見えない」
22 密会3
眉美は残りの一万円札を札槻くんに返す。会話。気を遣わなくていい仲間について。
23 忘れ物――帰宅
札槻くんがバスに乗って去ったのち、ベンチの上には件のコンタクトレンズが忘れられていた。後ろの小藪に身を潜めていた不良くんと帰宅する。自宅前で待っていた生足くんから三時間に及ぶ説教。
24 早朝集合
美少年探偵団の天敵ともいえる札槻くんとの密会は、団員全員の知るところとなるも、眉美を信頼するメンバーたち。団のために――眉美の推理が始まる。
25 重ねがけ
やはり謎解きのキーアイテムとなる「見えるコンタクトレンズ」
26 七年前の真相
眉美によって美しい事件の真相が明かされる。
27 自供
犯人は犯行現場に戻る。永久井こわ子登場。
28 屋根裏の真相
なんと、天才児くんがこれまでのしきたりを大胆に破った。二度目の発言。「人間を描かなかったんじゃない。神を描いたんだ」選ばれなかった絵の共通点――その真意とは?
29 エピローグ
謎解きのご褒美に、不法占拠していた美術室を、前所有者から正式に引き継いだ美少年探偵団。さらに、あのタイミングで永久井こわ子が登場した最後の謎と、美術室天井絵作成の理由が判明する。次回以降の伏線として「パノラマ島」
三十三枚の絵画、『講堂の中の講堂』、天井絵の意味――複数のパズルがまぜこぜとなった数々の謎の「美しき」真相は、ぜひ『屋根裏の美少年』をご一読ください!
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか。
前回読書感想を書いた小説が、音楽について描かれたものだったのですが、今回は美術がテーマでした。芸術について思わされる作品が続いたので、狐人的にはその点、興味深く楽しめました(狙ったわけではありませんが、いいコンボになりました)。
(音楽について描かれた小説の前回ブログ記事はこちら)
⇒器楽的幻覚/梶井基次郎=音楽を弾くにも音楽を聴くにも音楽を書くにも才能が要る?
ルーベンスの『聖母被昇天』があるアントワープ聖母大聖堂――ネロはどうやってこの入場料を支払ったのか?
冒頭から『フランダースの犬』について、ひねくれものの眉美が疑義を呈しているのがおもしろかったです。僕も結構ひねくれていると思っていたのですが、その疑問を持ったことはありませんでした。眉美が不良くんよりも教養があると喜んでいたように、僕も眉美よりはひねくれていないのかもと喜んでいいのでしょうか(笑)?
『フランダースの犬』の舞台となったベルギーでは、このお話があまり有名じゃない、というのは、知る人ぞ知る話、というのが眉美の認識でしたが、僕は結構有名な話なのかと思っていました。これを目的とした日本人が、現地へ旅行に行くと、がっかりしてしまう、といったことを、テレビか何かで見たような気がします。
ミレー作『落穂拾い』、フラゴナール作『ぶらんこ』、ミレイ作『オフィーリア』、マネ作『草上の昼食』、ルノワール作『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』――おそらく不良くんよりも教養がない僕には、タイトルからどのような絵か、思い浮かびませんでした。実際に見れば、知っているような気がする作品も、ちらほらといった感じですが。さすがにレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』や、ムンクの『叫び』くらいはわかりましたとはいえ……。
ただ、タイトルと作品が結びつかない、というのは、絵に限ったことではないのですよねえ……。たとえば、前述した音楽も、曲を聴いて、もし聴いたことがあったとしても、タイトルがわからないというものばかりです。まあ音楽を聴かないから、絵画を観ないから――といったところにすべての原因はあるのですが。せめて、一般教養レベルの芸術知識は、身に着けておきたいと思うのですが、なかなか実行に移せず……。
推理合戦の件で、眉美の……、というか札槻くんの推理は、とても興味深かったですね。すべての人が同じものを同じように見ているとは限らない、というところです。作中では、眉美の良過ぎる視力由来の推理として、シャコやクモやトンボの眼が引き合いに出されていましたが(シャコ、クモ、ドンボ――と並べられると『テラフォーマーズ』を連想してしまいましたが)、一般的に七色といわれる「虹」が人によっては十色や十二色、あるいは五色や三色に見える、という話は興味深いです。
このように、眉美はどちらかといえば視覚の機能面のほうによりスポットを当てていましたが、精神的な、あるいは脳機能的な理由のほうが、僕には納得しやすかったです。
たとえば、「相貌失認」という認知機能障害、あるいは脳機能障害があります。これはその人の顔を見ても、その人だと認識できなくなるもので、簡単にいってしまえば「人の顔が覚えられない」という症状です。「人の顔覚えるの苦手なんだよなあ……」という方は、結構いらっしゃるのではないでしょうか(かくいう僕も……)? 近年の研究によれば、症状の重軽は様々ですが、4,50人に1人は、この障害を持っているともいわれています。なんでもハリウッドスターのブラッド・ピット さんも、雑誌でこの障害があることを告白しているのだとか。
人が見えない――というよりは、人が認識できなければ、人が描けないというのは、すんなりと受け入れられる説のように思います。
それから、前作の『ぺてん師と空気男と美少年』事件の伏線が回収されたのは、狐人的には嬉しいところです(すっかり忘れていましたが)。しかし他にも見逃せない謎がある……、といいますが覚えてない! ――ということで、読み返す必要がありそうですね。
謎解きの重要なヒントとなる札槻くんの言葉。「大切なものは目には見えない」サン=テグジュペリ『星の王子さま』からの引用ですが、最近『しくじり先生』でオリラジの中田敦彦 さんが解説したことで話題となりましたが、じつはまだ未読です。ぜひ読んでおきたい作品です。
ふむ。結構書きましたか。ではそろそろ締めますか。
今回は、「美術のソーサク」こと指輪創作、天才児くんがクローズアップされた回ですが、無口無表情で、一見すると眉美を無視しているような態度もしばしばですが、じつは一番仲間想いなのかもしれません――と、このキャラの新たな魅力を感じさせる、オチの部分は素直に美しいな、と感じました。
三十三枚の絵画、『講堂の中の講堂』、天井絵の意味――今回の複数の謎の真相は、全体的に美談と思えるオチだったように、狐人的には思います。美少年探偵団の物語として相応しい、美しい一冊といえるのではないでしょうか? 美しい事件の真相が気になる方はぜひに!
読書感想まとめ
天才児くん――「美術のソーサク」こと指輪創作 回。『フランダースの犬』は、美談でもあり、しかしどちらかといえば悲しいお話でしたが、『屋根裏の美少年』は、美少年探偵団に相応しい美談だと思いました。
狐人的読書メモ
・『屋根裏の美少年/西尾維新』の概要
「美少年シリーズ」第三作。『屋根裏の美少年』=『屋根裏の散歩者』のオマージュ。天才児くん――「美術のソーサク」こと指輪創作 回。
・カンバスにパンを食べさせてるのか?(p.10)
昔の消しゴム(消しパン)
・シットコム(p.25)
シチュエーション・コメディ。コメディの一ジャンル。登場人物、場所が固定されていて、そこで繰り広げるコメディ。
・スタイラスペン(p.44)
スマホ、タブレット、ゲーム機で使うペン。
・子供ケータイは防犯ブザー機能あり(p.62)
・カワバンガ!(p.72)
サーファー用語。「やったぜ!」。『押絵と旅する美少年』でも出てた。お気に入りのフレーズ?
・江戸川乱歩のペンネームの由来、エドガー・アラン・ポーを知らないリーダー……(p.79)
・思案投げ首(p.86)
深く考え込み、頭をたれること。
・黒後家蜘蛛の会(p.99)
アイザック・アシモフの短編推理小説シリーズ。「美少年シリーズ」の構成のモチーフか?
・ファシリティ(p.104)
施設、設備など。
・コンプライアンス(p.112)
企業などが法令や企業倫理を遵守すること。
・アナーキー(p.112)
無政府状態、無秩序なさま。
・惻隠の情(p.124)
孟子の言葉。親が子を思う心。転じて相手の心情を深く理解すること。
・失踪宣告のこと(p.132)
・ジグソーパズルの難易度をあげる方法(p.134,135)
ふたつのパズルのピースを混ぜて、同時に複数のパズルを作る。
・チンピラ別嬪隊(p.159)
『少年探偵団』の「チンピラ別動隊」が元ネタ。
・『モナリザ』の俗説(p.190)
レオナルド・ダ・ヴィンチが自身を描いた自画像という説。
・ムンクの『叫び』(p.190)
大自然の叫びに怯える作者自身が描かれている。
・ギフテッド(p.206)
先天的に平均よりも顕著に高度な知的能力保有者を指す言葉。
以上、『屋根裏の美少年/西尾維新』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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