狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『海の見える理髪店/荻原浩』です。
荻原浩 さんの『海の見える理髪店』は第155回直木賞受賞作! 6つの短編小説からなる短編集です。どれも心揺さぶられずにはいられないお話でした。未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
・海の見える理髪店
人は何かの転機に髪を切る……。海辺の小さな町にある理髪店が口コミで評判となっている。そこを訪れた青年に、店主は昔語りを始めるが――。
・いつか来た道
確執ある母と娘。16年ぶりの再会は――。
・遠くから来た手紙
仕事ばかりの夫、口うるさい姑……、実家に帰った妻に届く不思議なメール。
・空は今日もスカイ
ガール・ミーツ・ボーイ。シュガーとフォレスト。リトルピープルの小さな冒険。
・時のない時計
形見分けにもらった父の腕時計を修理するため、古い時計屋を訪れた「私」に、店主が問う。「時計の針を巻き戻したいって思うことは、誰にでもあるでしょう」。店主の後悔と「私」の答え。
・成人式
15歳の一人娘を亡くして5年。父の想い、母の姿。
狐人的読書感想
さて読書感想ということで、まずは荻原浩 さん、第155回直木賞受賞おめでとうございます! ……てか遅すぎですよね(すでに156回直木賞受賞作が発表されているこのタイミングで……)。
前述のとおり、『海の見える理髪店』は6つの短編小説から構成されている短編小説集――どれもいいお話なのですが、誰でも、どれかひとつ、お気に入りの物語を見つけられる本だと思います。あるいは、自分の中で、『海の見える理髪店』お気に入りランキングをつけてみても、おもしろいかもしれません。
そんなわけで、「狐人的『海の見える理髪店』お気に入りランキング」をつけてみました。読みやすく、240ページ(ハードカバー)と分量も手頃なので、小学生・中学生・高校生の読書感想文の宿題にもおすすめ。参考になればこれ幸いです。
狐人的『海の見える理髪店』お気に入りランキング
第1位 空は今日もスカイ
堂々の(?)狐人的第1位は「空は今日もスカイ」でした。あらすじのとおり8歳の女の子シュガーと12歳の男の子フォレストが出会い、小さな冒険を繰り広げる物語――というと、ファンタジーみたいに思われてしまいそうですが、実際は彼らの家出の物語であって、非常に現実的なお話です。二人の子供が抱える事情は暗く重いものなのですが、ひとつのガジェットとして英語を上手く用いることで、子供らしさがとてもよく伝わってくる、どこかかわいらしい作品に仕上がっていて、大人の、しかも男性が書いているといった点で、作家の力量が感じられる(生意気言ってごめんなさい)物語だと思いました。村上春樹 さんの『1Q84』(リトルピープル)を思い浮かべてしまったのは、ひょっとして僕だけ?
第2位 成人式
狐人的第2位は「成人式」でした。娘を失って5年を経ても、薄らぐことのない父と母の哀しみが伝わってきて、泣きました。娘との最後の会話になってしまった何気ない朝の一言をいまだに後悔し、娘を失う原因となった、交通事故を起こした加害者のあざとさに憤り、やつの住所を突き止めて――と何度も思わずにはいられなかった父親の想い。古い個人データをもとに送られてきた成人式の振袖のカタログを狂ったように引き裂く母親の姿。ここまで思ってもらえたら、子供としては嬉しいし、その姿はただただ悲しい、忘れてほしくないけど、楽になってほしい――タイトルにあるように、「成人式」が2人の再出発となるよう、子供の視点から願わずにはいられない作品でした。
第3位 海の見える理髪店
狐人的第3位は表題作でもある「海の見える理髪店」でした。おそらく、やはりこれを第1位に挙げる方が多いのではないかとは思うのですが、(僕はひねくれもの?)だからこその第3位というわけで(どんなわけだよ)。しかし決しておもしろくないわけではありません。むしろエンターテインメント的には一番楽しめた物語でした。というのも、たとえばミステリー小説のトリックとかギミックとか伏線とか……、僕は結構分かるほうだと(自分では)思っているのですが、なぜか今回全然気づけませんでした(ということは鈍いということ?)。ただ、店主の後悔と生き方には共感を覚えましたが、被害者家族を思うと――といった感じで、感情のやり場に少し困ったのも事実です。最近書いた新美南吉 さんの『ごんぎつね』の読書感想を思い起こしてしまいました。
(参考までに。「ごんぎつねはかわいそうじゃなくて自業自得で自己満足?」⇒『ごんぎつね/新美南吉=狐人の感想は「ごんとナルトと、鰻の命大事に!」(ネットで話題になった「ごん自業自得」説にも言及)』)
第4位 時のない時計
狐人的第4位は「時のない時計」です。心に響くフレーズが一番多かった作品でした。以下、ちょっとだけ引用させていただきます。
彼にとって、時計のコレクションは、家族のアルバムのようなものらしい。時計屋という職業だからこそ可能な贅沢なアルバムだ
荻原浩(2016)『海の見える理髪店』集英社,p182
時計が刻む時間はひとつじゃない。
荻原浩(2016)『海の見える理髪店』集英社,p187
「時計の針を巻き戻したいって思うことは、誰にでもあるでしょう」
荻原浩(2016)『海の見える理髪店』集英社,p188
時計屋の店主はかつての自分を後悔していますが、客観的に見てこの店主に落ち度はなかったと、僕は思いました(当然、店主の語る短い会話からの感想なので完全にそうだと言い切れるレベルではありませんが)。ただ、主人公の「私」の視点から見ると、この店主はちょっと意地悪なひねくれものに映るのです。本人は悪くなくても、運命が人を歪めてしまうことがある――そのことを思わされて少し哀しくなりました(もちろん主人公目線なので、実際に会った感じ方は、また違うのかもしれませんが)。
第5位 遠くから来た手紙
狐人的第5位は「遠くから来た手紙」です。総合的には感動的なお話でしたが、主人公の女性にいまいち共感できませんでした。子育ての大変さや主婦の辛さを嘆いている姿に「う~ん」となってしまったのは、実際の子育ての大変さや主婦の辛さを僕が知らないからかもしれません。そういった意味では、主婦やお母さんの方がこの作品をどのように読むのかは、ちょっと気になるところです。ぜひ感想を聞いてみたい。
第6位 いつか来た道
狐人的第6位は「いつか来た道」です。確執ある母と娘の再会の物語ですが。主人公の娘の感情や、老いて認知症を患っている母の姿に、ほとんど感情移入できませんでした。……なんでだろう? ぱっと理由が思いつけず……、もう一度読んでみて、じっくりと自己分析してみたく思い、そういった意味では、狐人的に考えさせられる作品ではあります。
読書感想まとめ(ランキングのみ)
狐人的『海の見える理髪店』お気に入りランキング
第1位 空は今日もスカイ
第2位 成人式
第3位 海の見える理髪店
第4位 時のない時計
第5位 遠くから来た手紙
第6位 いつか来た道
あなたのランキングは? 荻原浩 さんの『海の見える理髪店』の6作品は、どれも「すっきり!」というよりは、どこか「しこり」の残るラストになっているように、僕には思えましたが、それもふまえて、とてもいい小説でした。おすすめです。
狐人的読書メモ
・『海の見える理髪店/荻原浩』の概要
第155回直木賞受賞作。荻原浩 さんは39歳で小説家デビューされたそうですが、初めて書いた長編小説(『オロロ畑でつかまえて』)で新人賞を受賞しているのはすごいです。やはり才能のある人というのは、初めて書いた物語から評価を得られるものなのでしょうか……、コピーライターをされていた経験から、文章力が培われてきた結果、ということもあるのでしょうが。
調べ方。両手を前に伸ばし、三角を作る。遠くにあるものを作った三角の中に入れる。左目を閉じてみて、対象物が見えなくなったら、利き目は左目。変わらなければ利き目は右目。ダーツや野球で利き目を使うといいらしい。あとフィギュアスケートは利き目側に回転するといいとのこと。視力低下を防ぐには、利き目でない方を意識して、バランスよく両目でものを見ること。
赤は動脈、青は静脈、白は包帯を意味している。昔のヨーロッパでは、体の悪い血を抜く外科医の治療を、床屋が行っていたことに由来する。
実際は小さな花の集合体である。
諸説ある。リンカーン、ケネディ、キング牧師が関係している? セイコーの意図、原爆投下の追悼? 12時の位置にあるメーカーロゴが隠れないように。左右対称で美しい。
カッコウ(郭公)は閑古鳥ともいい、「閑古鳥が鳴く」というように縁起がよろしくない――という理由で日本では鳩時計になった。
・欧路麗(オーロラ)ちゃん
四股名じゃないんだから……、とは美絵子の言。四股名はお相撲さんの名前のこと。たしかに、キラキラネームやDQNネームって、四股名みたいなものもあるような気もする。
・ちょっと気になるフレーズ
仕事っていうのは、つまるところ、人の気持ちを考えることではないかと私は思うのです。
荻原浩(2016)『海の見える理髪店』集英社,p14
……たしかに。
「知ってる? フォレスト。虹のたもとを見た人間は、まだ誰もいないんだよ」
荻原浩(2016)『海の見える理髪店』集英社,p149
……なんか、どこかで聞いたことのあるような、素敵な言葉だと思った。冒険家の言葉ではなくて、シュガーのお父さんの言葉。
以上、『海の見える理髪店/荻原浩』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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