狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『やんぬる哉/太宰治』です。
文字4800字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約13分。
空襲で焼け出された疎開人は田舎の人にもっと助けてほしい。でもあまり言われ過ぎると自力更生してって言いたくなる。アイロニカル。何を皮肉っているの? それは皮肉っていいの?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
私が故郷の津軽に疎開していた頃、小学生時代の友人たちがよく訪ねてきてくれた。彼らと話をするのは楽しかったが、中にはあまり愉快でないひともいた。
彼は町の病院に勤めている一医師で、夕食をごちそうしたいと私に電話をしてきた。なんでも中学時代の同級生とのことだったが、私はその医師の顔と名前をぼんやり思い出す程度だった。
私は昼過ぎに直接医師の私宅に出向き、夕食の招待を失礼にならないように断った。彼は私の申し出を承諾したが、しかしせっかくだからリンゴ酒を飲んでいってほしいという。気が進まないまま私は彼のもてなしを受けた。
彼はつまみにナマズの蒲焼を出してくれた。妻の創意工夫がこらされた一品で、鰻と少しも変わらないという。私は彼が以前どんな鰻を食べたのだろうといぶかった。
妻の創意工夫について彼の自慢話が続いた。こないだ彼の妻が疎開人家族の奥さんと口論をしたらしい。疎開人奥さんの言い分は、自分たちは都会から焼け出されてきて困っているのだから、田舎の人はもっと自分たちを助けてくれてもいいはずだという。
彼の妻は、都会が空襲にあうのはわかっていたはずだし、その前に何かしらうまい工夫ができたはずだし、政府からお見舞金なども出ているはずだし、何より田舎の人々にだって自分たちの生活がある、誰もがまずは自力で道を切り開く工夫をすべきだと主張する。
私は世の俗物たちを罵倒したいような気持ちになるが、立ち上がって医師にお礼とそれからお世辞を言った。「いい奥さんをもって幸せですね」
そして往来を大きなカボチャを三つ背負って歩いているおかみさんを指さして、「たいていは、あんなひどいものなんですからね。創意も工夫もありやしない」
やんぬる哉。それが医師の妻だった。
狐人的読書感想
『小学校時代の友人とは、共に酒を飲んでも楽しいが、中学校時代の友人とは逢って話しても妙に窮屈だ。』――といっているのですが、同窓会って小中高大のどれが一番楽しそうだろう、ってふと思ったんですよね。
調べてみると「中学生の同窓会」「高校生の同窓会」が「参加したい同窓会」として多く挙がっていました。どの時代が一番楽しかったか、っていうのと通じているんですかね……、そうなると太宰さんは小学校のころが一番楽しかったんですかね……、みたいな。
医師の妻の創意工夫の成果「なまずの蒲焼」ですが、これって現代でも注目されたりしてますよね。うなぎの代替食品として。まあ、実際食べてみるとやっぱり「なまずはなまず、うなぎはうなぎ」という感じらしいです。
戦後の食糧不足、現代の(うなぎ)資源の減少――ものが不足しているときの創意工夫というのは、たしかに大切だろうなあとは思います。医師の「イヤな奴っぽいキャラ」のせいで、すんなりとは受け入れがたく思ってしまうのですが、それにしてもやっぱり。
さらに医師の妻が言っていることもあながち間違ってはいないんですよね。空襲で焼け出された人、現代でいえば震災に被災された人が近いんでしょうか。
もちろん大変だというのはわかるのですが、それを誰かが助けてくれなかったとして、そのことに文句を言ってしまうのはちょっと違うのかなあ……、みたいな(ワガママ被災者、モンスター被災者とかいわれたりもするそうですね)。
しかし自分が被災したとき、たぶん、助けてほしい、もっとよくしてほしいって思ってしまうとは思うんですよね。でも「助けて助けて」って言われすぎると本作の医師の奥さんみたく思ってしまう自分もいます。
困ったときに誰かに助けてほしければ、困った人がいたときに助けなけなければならないのですが、自分が助けてもらった経験がないとなかなかそれをするのが難しいように考えてしまいます。
(金銭や心にゆとりのないときはもっと難しく感じます。自分がつらいときにはやっぱり自分のことしか考えられない気がします)
こういう心の動きがあるのはたぶん普通のことなんじゃないかと思います。だけど少なくとも、どちらもそれをひとに言うべきことではないのかなって気がします。そのあたりが『……世の俗物どもを大声で罵倒したいと渇望した』ほど太宰さんをイラつかせた理由なんでしょうかね?
思うのは勝手でも口に出すべきじゃないこともあるのかな、とか考えた、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
被災者様?支援者様?
狐人的読書メモ
・とはいえ言わないと何が求められているのか伝わらないこともある。時と場合があるということか。だけど切羽詰まった状況でそれを考えるのが難しいのかもしれない。
・『やんぬる哉/太宰治』の概要
1946年(昭和21年)『月刊読売』にて初出。アイロニカルな作品だけど何を皮肉っているのか、それは皮肉っていいのかが難しく感じた。
以上、『やんぬる哉/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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