狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『河童/芥川龍之介』です。
文字42000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約104分。
人間は子供を生むとき、両親の都合しか考えない。河童は、生まれてくるか、お腹の子供に尋ねて決める。河童の雌は超肉食系女子。失業者は肉にされる。おぞまふしぎな河童の世界。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
三十歳を越している彼は、三年前の夏、山登りの休憩中に見つけた河童を追って穴に落ちる。
気がつくと、そこは河童の国だった。
彼は、河童の医者チャックの治療を受け、山で見つけた河童の漁師バッグとも親しくなり、河童の国で暮らし始める。河童の国では人間は特権を与えられ、働かずとも食べていける。
彼は河童の言葉を覚え、交友関係を広げ、河童の社会を知っていく。河童は、人間のまじめに思うことをおかしがり、人間のおかしがることをまじめに思う、真逆の価値観を持っている。
たとえば、産児制限。人間は両親の都合ばかりしか考えないが、河童は子供の都合を考える。お腹の中の赤ん坊は「この世界へ生まれてくるか?」と父親に尋ねられ、決めることができる。「僕は生まれたくありません」
河童の恋愛。河童の雌は、気に入った雄をとらえるのに、いかなる手段も顧みない。遮二無二雄の河童を追いかけ、誘惑し、相手がその気になってもべつのよい雄が現れれば、平気で騙し、裏切る。雌とはかかわらないのが幸福なようだが、あの恐ろしい雌に追いかけられたい気もする。
労働問題。新たな機械が開発されれば、労働者は減った仕事の分だけで解雇される。無職になった労働者は食料になる。失業者が増えるだけ肉の値段も下がる。
その他、戦争、芸術、法律、宗教など、河童の世界のものごとの捉え方は、人間世界のそれを風刺しているように見えた。
彼はだんだん河童の国にいるのが憂鬱になる。人間の国へ帰ることにする。両方の世界をつなぐ穴のある家、そこで出会った河童は、子供の老人だった。つまり、白髪頭の老人の姿で生まれ、年を経るごとに若返り、ようやく子供になっていたのだ。
子供の老人の河童に「出ていって後悔はしないように」言われ、「後悔などはしません」と答えた彼だったが、それから一年後事業に失敗し、「河童の国に帰りたい」と思うようになる。しかしその願いは叶わず、精神病院へ入れられてしまう。
水道管を抜け、消火栓を開けて、河童が見舞いにくると彼は話すが、河童が土産に持ってきたという花束はなく、河童の国の言葉で書かれたという詩集はただの古い電話帳だ。
以上は、ある精神病院の患者、第二十三号が誰にでもしゃべる話である。
狐人的読書感想
すごくおもしろかったです。
人間の世界とはまるで違う河童の国を描くことで、人間社会を風刺している作品なのだとか。
人間には特権が与えられ、働かずとも食うに困らず、というだけで河童の世界に行ってみたくなります。
河童の世界の価値観について、狐人的に興味深いものを、いくつかあらすじに書き出しました。
まず、河童の出産について。
人間の世界では、子供を生むか生まないか、決められるのは親だけですが、河童の世界では、生まれてくるかどうか、お腹の中の赤ちゃんが決めることができます。
何かつらいことや悲しいことがあったとき、「なんで生まれてきたんだろ?」って思うことは、誰にでもありますかね?
もしも生まれるかどうか選べるならば、「僕は生まれたくありません」という選択をするかどうか、考えてみます。
人生にはつらいことも楽しいこともあります。しかし、つらいことと楽しいこと、どちらの質が大きくてどちらの量が多いのか……。
正直、狐人的には、一つの決定的なつらいことの質は、どんなに楽しいことの質よりも重く感じられるんですよね。
決定的なつらいことを経験せず生きられるなら、生まれてきたいような気がするし、しかしながら、そんな保障を親がするのもまた難しいと感じます。
子供が生まれるときには親は大金持ちで、必ず生まれてくる子供を幸せにできると思っていても、いつかそんな状況は壊れるかもしれず、そもそも幸せなんてものはひとそれぞれなわけで、子供を必ず幸せにできるなんて言い切れる親は傲慢ともいえそうで――考えさせられてしまいます。
生まれてきて幸せか不幸か、結局個々人の結果論に過ぎず、であれば、生まれてきたいかどうか、選べたとしても、それにあまり意味はないような気もするのですが、そういうことを考えることには多少意味があるようにも思えるんですよね。
もしもあなたが生まれるか生まれないかを選べたとしたら、いったいどちらを選んでいましたか?
一度は考えてみてもいい命題かもしれません。
河童の恋愛について。
気に入った雄をとらえるのに、いかなる手段も顧みない――って、大金持ちのイケメンをゲットしたい超肉食系女子、みたいな話ですよね(そんな話を前にテレビで見たような気がします。御曹司を奪い合う女たちの争いみたいな企画でした)。
作品が発表された当時の日本では、物珍しい話だったのでしょうか。中国の後宮の話だったり――時代や国によってはそれほど奇異ではないように思えるのですが、なかなか興味深い河童の恋愛事情でした。
労働問題について。
失業者は食料にされてしまうっていうのは、普通に恐ろしい話ですね。社会に対して価値のない人間は不要である、っていう考え方が描かれているように思えて、あながち否定しにくいところと不快に思う気持ちがあるのですが、どうなんでしょうね?
ある種の昆虫のように、社会的弱者を強制的に有効活用して(食べて)、効率的に繁栄すべきが有用な社会システムだという気もしますが、心を持った人間の社会としてそれは進歩なのか後退なのか……難しく考えてしまいます。
しかしながら、失業しただけで肉にされるのはイヤだなあ、と単純に思いました。
いろいろ考えさせられておもしろい小説だと思った、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
生まれてきたいか、聞かれてどうする?
狐人的読書メモ
・老人として生まれ、年を経るごとに若返る河童の話は、どこかで聞いたことがあると思った。それはフィッツジェラルドの『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』かもしれないと思った。
・『河童/芥川龍之介』の概要
1927年(昭和2年)『改造』にて初出。芥川龍之介の代表作。二十世紀初頭の日本社会を背景に、現実批判を主とする風刺文学。芥川の命日(7月24日)は、この作品に因んで「河童忌」と呼ばれる。
以上、『河童/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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