谷/宮沢賢治=人間の恐さ?高所平気症?想像力が生む恐怖。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

谷-宮沢賢治-イメージ

今回は『谷/宮沢賢治』です。

文字5000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約13分。

小学生のときの思い出。近所のお兄さんが、きのこがたくさん採れる秘密の場所を私に教えてくれる。お兄さんは白いきのこばかり採り、私には茶色のきのこを採るように言う。茶色のきのこは実は……

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

尋常小学校三、四年生の頃、私は馬番の理助に連れられて、初めて楢渡ならわたりの崖へきのこ採りに行った。そこはたくさんのきのこが採れる、理助の秘密の場所だった。理助は私に茶色いはぎぼだし(ホウキタケ)を採るように言い、自分は白いのばかりを採った。帰りに理助は谷を見せてくれた。まっ赤な火のような崖は恐ろしく、私はちらっと下を見ただけでくらくらした。理助は「危ないからここへ一人で来てはいけない」と警告した。家に帰って兄に話すと、茶色のはぎぼだしは古いきのこで、理助はずるだと教えられた。

つぎの春、理助は北海道の牧場へ行ってしまった。私は友達の藤原慶次郎と一緒に、あの秘密の場所へきのこ採りに行こうと相談する。今度はたくさんの白いはぎぼだしを採り、また楢渡の崖を見た。慶次郎と一緒にまっ赤な崖に叫び、こだまが返ってくるのを楽しむ。しかし、「馬鹿野郎」と悪口を叫んだとき、こだまはごそごそと呟くように聞こえてきて――私と慶次郎は恐くなってその場から逃げ出す。うしろから「ハッハッハ」と笑うような声がした。

次の年はとうとう兄さんにも一緒にでかけてもらった。

狐人的読書感想

宮沢賢治さんが小さい頃、近所のお兄さん(理助)がきのこ狩りに連れて行ってくれた思い出話なんですかね、現在ではなかなかお目にかかれないようなシチュエーションですが、やはりどこか子供の頃の懐かしさを感じられる作品です。

自分はおいしい白いきのこばかり採り、「私」には嘘を教えて古い茶色のきのこばかり採らせた理助――しかし、ひょっとして、来年は北海道の牧場に行くことがわかっていたのだとしたら、「私」にきのこがたくさん採れる秘密の場所を受け継いでほしいと思ったのでしょうか……だとしたら、どこか憎めないキャラなんですよね。

本作はちょっとホラー的な趣もあります。それは「谷」の恐怖です。まず古い溶岩流がまっ赤な火のように見える、見た目の恐怖。つぎに底はまっ白な霧でなんにも見えない、高さの恐怖。そして、急にこだまがひとりでに話し出したかのような、言い知れぬ怪しい恐怖。

見た目も高さも怪しさも――恐怖って、想像力が生み出す感情ですよね。まっ赤な火のような崖も、高所が喚起する怖さも、得体の知れない怪しさも、自分の生命を脅かすようなものに思えて、だから怖いんだって気がします。まっ赤な崖も得体の知れない現象も、なんとなく命を脅かされるんじゃなかろうかって、身がすくんでしまうんですよね。

狐人的には、高所恐怖症はその中でも想像しやすく、「高いところから落ちる=命を落とす」というのは単純でわかりやすいです。しかしながら、高所恐怖症は人間の持つ本能的で自然な反応であり、むしろ高いところを怖がらない高所平気症のほうがホントは病気なんじゃないかって話もあります。赤ちゃんは「高い高い」で笑っているように見えますが、「本当は怖いんじゃないの?」なんて話もあります。

できれば恐怖は感じたくないものですが、しかし命の危険を回避するシグナルが恐怖なので、まったくなくしてしまうのも考えものなんですよね。わざわざホラー映画を見たり、ジェットコースターに乗ったり――恐怖を楽しめる人もけっこう多くいたりしますが、恐怖と快感を処理する脳の部位は非常に近く、またかなり重複しているらしく、そのしくみがまた不思議な感じがします。

「多くの本能は狩猟生活に根ざしている」なんて説もあって、狩猟は常に危険と隣り合わせだから、恐怖しながらもそれを快楽として楽しめるしくみが必然的に生まれたのだともいうんですよね。

不思議な怖さを感じた、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

人間の恐さ?高所平気症?想像力が生む恐怖。

狐人的読書メモ

・はぎぼだし(ホウキタケ)は「森のさんご」ともいわれるきのこ。火を通すとプリプリの食感になり、ホイル焼きや炊き込みご飯にすると美味らしい。外見が似ている「ハナホウキタケ」「キホウキタケ」は毒きのこなので注意。

・『谷/宮沢賢治』の概要

小さい頃の回想録。なんとなく懐かしさが感じられる。少年の恐怖心と好奇心。

以上、『谷/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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