狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『人形と狼/夢野久作』です。
文字300字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約1分。
狼は可愛がることを知らない。人間は人形を大切にする。その差は何か。ベビースキーマ。可愛いと感じる気持ちは母性本能に起因し、狼にも母性本能はある。ではなぜ……
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(今回は全文です)
『人形と狼/夢野久作』
お腹の空いた狼が野道を歩いて来ますと、遠くに一人の赤ん坊が寝ているのを見つけました。狼は大喜びで走って来てみると、それは誰かが落した大きな人形でした。
「ええ、この役立たず奴が」
と狼はあと足で蹴散らかしました。
「乃公のたべ物にならない位ならば何だって人間の形をして生まれて来た」
人形はニコニコして答えました。
「お気の毒様ですね。あなたのように何でも可愛がる事を知らないものには私は役立たずに見えるでしょう。しかし人間の中には私を生命よりも大切な友達にして下さる方がいくらでもありますよ。私は狼のお役に立つよりも人間のお役に立った方がうれしいと思います」
狐人的読書感想
人形と狼のやりとりが描かれた非常に短いお話ですが、興味深い会話をしてるんですよね。
人形は「狼はなんでも可愛がることを知らない」「人間の中には人形を生命よりも大切な友達にする人がいる」と主張していますが、(はたしてこれってどうなんだろう?)って思っちゃいます。
「可愛がることを知っている人間」と「可愛がることを知らない狼」とでは全然違うふうに人形は言っていますが、はたして本当に全然違うんですかね?
人間が何かを見て「可愛い」って思うとき、そこには法則性があって「ベビースキーマ」とかいったりします。大きな目とか短い手足とか、文字通り赤ちゃんがそなえている特徴ですね。
たぶん、まず赤ちゃんがいて、その赤ちゃんを子孫繁栄のために守らなくっちゃいけなくて、それで赤ちゃんの持つ特徴が母性本能や父性本能を刺激するもの(可愛いと感じる気持ち)になったんだと思います。
では、「可愛いと感じる気持ち=母性本能」ともいえるわけで、母性本能は狼にもあるわけで、だったら狼と人間にあまり違いはないようにも感じられます。
……で、狼が人間の子供を育てる話とか、動物が他の動物の子供を育てる話とかを思い浮かべたのですが、「狼が人間の子供を育てる話」は嘘の話が多くて信ぴょう性が疑わしいらしく、「他の動物が他の動物を育てる話」は人間による飼育環境下がほとんどなのだそうで、野生の動物では滅多にないのだとか。
じゃあ、ペットを育てたり、人形を(生命だと誤認せず)可愛がるのは、やっぱり人間だけだってことになって、作中の人形が言ってることはやっぱり正しいんだろうな、ってなるんですよね。
なぜ人間は他の動物を可愛いと思うのか? 上記のベビースキーマに加え、いまや人間は他の生物に命を脅かされる危険がほとんどなくなったために、他の動物を可愛がるゆとりが生まれたということなんでしょうね。
そして、なぜ人間は人形を可愛いと思うのか? きっと上の延長線なんでしょうね。
他の動物どころか、命を持たない人形にまで愛情を持つこと。「最後に愛は勝つ」的な、愛情は無条件で正しいみたいな――なんとなくそういった幻想を狐人的にも持っている気がするんですが、それが逆に生きにくさを生んでいるような気がするときもあります。
人間がペットや人形を助けるために自分の命を犠牲にしたら、それは本末転倒だという気がするし、しかしその行い自体は尊いことのような気がするし。
でも、まあ、ペットや人形のために自分の命を危険にさらすようなシチュエーションは、現実的にはあまりないんでしょうかね。
愛情が人間を生きにくくしているように思えて、でも実際にそこまで生きにくくもなっていない感じがして、上手くバランスがとれているような……結局何が言いたいのかよくわからなくなってしまった、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
なぜ人間は人形を可愛いと思うのか?
狐人的読書メモ
・自己の生命に危険がないから、他の動物を愛でることができる、という点は人間も動物も一緒。ならばやっぱり、人間も動物も違いはない、のだろうか……。
・『人形と狼/夢野久作』の概要
1923年(大正12年)11月、『九州日報』にて初出。九州日報シリーズ。初出時の署名は「香倶土三鳥」。短いけど興味深い会話を交わす人形と狼。
以上、『人形と狼/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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