狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『富嶽百景/太宰治』です。
文字15000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約44分。
太宰治代表作。大学入試頻出作。太宰治はほぼ毎年どこかの大学の入試問題になっている。富士には、月見草がよく似合う。シャッターを頼まれ、ポーズを決める二人を外し、パチリ(笑)の意味。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
富士山はそんなに大したものじゃない。見る場所によって全然変わる。十国峠から見た富士は高く、よかった。東京のアパートの窓から見た富士は、苦しい。そのときの心境によっても富士はさまざまな姿を見せてくれる――。
芥川賞もとれなかった。体調も崩した。この世を去ることもできなかった。――昭和十三年、初秋、二十九歳。
私は、私生活、小説――いろいろな苦悩を抱えていた。心機一転。井伏氏を頼り、甲州、御坂峠の天下茶屋を訪れた。
そこから見える富士は、昔は富士三景の一つに数えられてそうだが、私はあまり好かなかった。軽蔑さえした。まるで、風呂屋のペンキ絵、芝居の書割。注文通りの景色は恥ずかしくなる。
井伏氏の仕事が一段落したある日、二人で三ツ峠を上った。頂上には霧が出て、富士山は見えない。茶屋で休憩していると、店の老婆が気の毒がって、富士の写真を持ち出してきて、一生懸命説明してくれた。いい富士を見た。
二日後、井伏氏の世話で私は見合いをした。客間には富士の俯瞰写真がかけられており、そこから目を離すとき、ちらと娘さんを見た。このひとと結婚したいと思った。あの富士は、ありがたかった。
バスの車内から見た、道端に咲く月見草。ささやかに、しかし微塵も揺るがず、富士と相対峙している――富士には、月見草がよく似合う。
十月になっても仕事はうまく進まなかった。結婚の話も、実家から費用を出してもらえる見込みはなかった。先方に行って、正直に事情を打ち明けることにした。結婚は破談になっても仕方ない。が、母親も娘さんも、あなたひとり、愛情と、職業に対する熱意さへあればいい――目が熱くなった。
十一月、寒気が耐え難くなり、私は山を下りる決意をした。その前日、富士をバックにシャッターを切ってほしいと、二人の女性から頼まれた。私はポーズをとる二人を外し、さようなら、お世話になりました――パチリ。感謝を込めて、富士山だけを大きく写したのだった。
狐人的読書感想
主題は「再生へ向かって」といった感じですかね。
そのときの気持ち、場所、一緒にいる人々――いろいろな条件によって、見る景色が変わってくる、というところに、とても感銘を受けました。
物語の最初には「風呂屋のペンキ絵」や「芝居の書割」に見えた富士山も、物語が進んでいくうち、「いい富士」や「あの富士は、ありがたかった」となっていき、「私」の気持ちが徐々に持ち直していく様子がよく伝わってきます。
「富士には、月見草がよく似合う」というのは、この作品の代名詞といえるくらい有名な一文だそうですが、月見草のような小さな存在であっても、しっかりと自己を確立していれば、富士山にも見劣りしない生き方ができるというような、メッセージが込められているんですかねぇ……。
結婚費用の目途がつかず、その事情を先方へ打ち明けに行ったとき、相手方の母親と娘さんが示してくれた理解には、たしかに目頭が熱くなります。弱っているときほど、周りの人の気遣いや優しさが身に染みて感じられますよね。
オチは笑っちゃいますね。
二人の女性からシャッターを頼まれて、ポーズを決める二人を外して、富士山だけを大きく写したのだった――って。女性たちからしたら笑えない気がしましたが、それもまたいい思い出になって、案外笑えたのかもしれません。
それ以外にも、印象に残るシーンが多くて、名作といわれる意味が実感できます。教科書や大学入試にもよく取り上げられる作品なんだそうです。
(てか、太宰治さんはどこかの大学で、ほぼ毎年入試に出題されるんだそうです)
よく失恋旅行とか、傷心の気持ちを切り替えるため、心機一転、旅行に出かけるという話は聞きますが、正直、その意味があまりわかっていなかったのですが、本作を読んで、そういうことなのかなぁ……と、ちょっとわかった気になりました(また、違うのかもしれませんが)。
落ち込んだときに読みたくなるような、旅行に行ってみたくなるような、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
大学入試によく出る、富士には月見草がよく似合う。
狐人的読書メモ
・富士山雑学1、富士山の山頂だけは所有者がいる。富士山8合目以上は、静岡県富士宮市の浅間大社の境内地(奥宮)になっている。
・富士山雑学2、富士山頂にある自販機は500円。7合目では400円。6合目では300円。5合目では200円。運搬費と人件費がかかってしまうため。
・『ニツポンのフジヤマを、あらかじめ憧れてゐるからこそ、ワンダフルなのであつて、さうでなくて、そのやうな俗な宣伝を、一さい知らず、素朴な、純粋の、うつろな心に、果して、どれだけ訴へ得るか、そのことになると、多少、心細い山である。』――なんとなく、わかる。
・『人は、完全のたのもしさに接すると、まづ、だらしなくげらげら笑ふものらしい。全身のネヂが、他愛なくゆるんで、之はをかしな言ひかたであるが、帯紐といて笑ふといつたやうな感じである。諸君が、もし恋人と逢つて、逢つたとたんに、恋人がげらげら笑ひ出したら、慶祝である。必ず、恋人の非礼をとがめてはならぬ。恋人は、君に逢つて、君の完全のたのもしさを、全身に浴びてゐるのだ。』――なんとなく、わかる。
・『富嶽百景/太宰治』の概要
1939年(昭和14年)2、3月、『文体』にて初出。再生に向かう物語。1938年の実体験が描かれている。太宰治の代表作。中期を代表する作品。大学入試頻出作品。なるほど。すごくよかった。
以上、『富嶽百景/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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