狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『薬局/織田作之助』です。
文字数400字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約1分。
いろんな読み物が小説と呼ばれていて、小説とは……ってなるけど、それは織田作の『薬局』みたいな小説かも。本作には「疲労をポンポンとる」ものが出てきますが、決して使ってはいけません。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(今回は全文です)
『薬局/織田作之助』
その男は毎日ヒロポンの十管入を一箱宛買いに来て、顔色が土のようだった。十管入が品切れている時は三管入を三箱買うて行った。
敏子は釣銭を渡しながら、纒めて買えば毎日来る手間もはぶけるのにと思ったが、もともとヒロポンの様な劇薬性の昂奮剤を注射する男なぞ不合理にきまっている。然し敏子の化粧はなぜか煙草屋の娘の様に濃くなった。敏子は二十七歳、出戻って半年になる。
男の顔は来るたび痛々しく痩せて行った。
「いけませんわ。そんなにお打ちになっては」
心臓が衰弱しますわと、ある日敏子は思い切って言った。敏子の夫は心臓病で死んだのだ。
「いや大丈夫です。もっとも傍にあれば何本でもあるだけ打つから、面倒くさいが、毎日十本宛しか買わないことにしてるんです」
顔を見に来た訳じゃないと、その言葉はヒヤリと合理的で、翌日敏子は思わずつんとして、ヒロポン品切れです! しかし声はふるえ、それがせめてもの女心だと亡夫を想った。
狐人的読書感想
いきなりですが「小説とは?」みたいなことをふと思い、織田作之助さんの『薬局』を読んで、「こういう作品のことかもしれない」みたいなことを感じたというお話。
小説の定義って、かなり曖昧というか広いというか、これっていうものがないような気がしているのですが、織田作之助さんの(超)短編が小説だと言われたら、狐人的にはけっこう納得がいくんですよね。
著者の言いたいことが物語の中に、ほのかに匂わせる程度に(暗示的に)描かれているということが、一つ小説の定義なのだとか言い出したら、当たり前だと受け取られてしまうかもしれませんが、この実践がなかなか難しく感じてしまうのは、はたして僕だけ?
自分で書いているときって、どうしてもその事柄や言いたいことを直接的な言葉で書いてしまいがちになるのですが、それを登場人物たちの行動や発言によって描くのが小説なのだとか、なんだかわかった気になってしまうんですよね、できてないのに……。
(わかった気にばかりなって、実践できていなければ、意味がないですよねぇ……)
小説というものを見失っている気がしたとき、改めて読み直したい作品の一つだと感じました。
(短いしすぐ読めるのがいいですね。勉強になります)
さて。
本作は、一人の女性の淡い恋心、あるいは亡夫への追憶……まさに複雑な(実は単純な?)女心というものが、こんなに短い中にもみごとに描かれていて、思わず唸らされてしまいます。
作中、主要なガジェットである「ヒロポン」とは、劇薬性の昂奮剤のことで、いまでは危険な薬物として、販売・使用が禁止されていますが、その危険性が認知されていなかった戦後には普通に薬局で売られていたようですね。
名前の由来は「疲労をポンポンとる」からだとか、ギリシャ語の「労働を愛する(philoponus)」からきているのだとかいわれていて、「何日も寝ずに仕事ができる!」とか言われたら、ついつい試してみたくなりそうですが、言うまでもなく試してみてはいけない薬です。
織田作之助さんをはじめ、坂口安吾さんや芥川龍之介さんも、これを濫用して身を持ち崩してしまったというのは、けっこう有名な話かもしれません。
当たり前のようなことであって、しかし実は難しいことでもあるような、いろいろと勉強になったような、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
小説とはなんだ? 疲労をポンポンとるものな~んだ?
狐人的読書メモ
・日本で規制されている薬物は主に二つ。アンフェタミンとメタンフェタミン。ヒロポンはメタンフェタミンの一つで、強い興奮作用がある。「the queen of ice(氷の女王)」という異称がなんだかカッコいいと感じた。とはいえ、副作用は身を滅ぼすので、カッコいいとか言って、絶対に使用してはならないと感じた。
・『薬局/織田作之助』の概要
1946年(昭和21年)8月、『大阪朝日新聞』にて初出。非常に短いショートショートだが、小説とは何かを教えてくれるような好短編だと狐人的には思っている。織田作之助のショートショートは小説というものを見失っていると感じたときに読み直したい小説である。
以上、『薬局/織田作之助』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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