狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『将軍/芥川龍之介』です。
文字数18000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約43分。
乃木坂の名前の由来になった乃木将軍。ひとを平気で鉄砲玉にする権力と欺瞞。最近のあの問題を彷彿とさせる。悪いのは誰か。人間が抗うことのできない巨大な何か(理不尽)を感じる……
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
日露戦争、旅順攻撃。軍司令官の乃木希典将軍は、白襷隊による特攻を敢行する。これは名誉なこと……何が名誉だ、俺たちは命を捨てに行くのだ……馬鹿野郎、お国の為に捨てる命だ……。将軍の激励により、兵士たちは様々な思いを抱えながら、戦地へと赴いていく。
乃木将軍の命令により、捕らえたばかりのスパイは、即刻処刑されることになった。将軍は、取調べをしていた副官の手柄を横取りしたことにも気づかず、処刑の様子にモノマニアックな興味を示す。ある中佐は、あれだけの勲章を手に入れるには、どれほどのことをしてきたのだろう……と思わずにはいられない。
兵士たちを慰撫する舞台劇が行われる。劇中裸の女性が現れたり、濡れ場の演出が挟まれたりするたび、乃木将軍は怒声を上げて劇を中断させ、兵士たちの興を削ぐ。しかし、粋な日本男児が登場する劇では、感激して涙を流すなど、善良な一面も垣間見せる。
戦争から十四年後、いまでも乃木将軍を敬愛している中村少将と、その息子が会話を交わしている。乃木将軍はすでにこの世を去っている。父にとっての乃木将軍は、忠君愛国の崇拝すべき人物であるが、子にとっては一定の尊敬は抱いても、すでに過去の人でしかない。父はそれに時代の差を感じるのだった。
狐人的読書感想
白襷隊が特攻していく場面を読むと、何とも言えない気持ちになります。
芥川龍之介さんは、乃木将軍という個人を批判することで、当時国民の命を犠牲にしてまで行われていた侵略戦争と、それを是とする風潮を批判しているように、僕には感じられたのですが、どうでしょうね?
国を挙げて戦争をしていた時代、これを言えるのはすごいことだ、という気がしたのですが、昭和のイメージとごっちゃになっているんですかね……、まだそこまでの言論統制はなかったのかもしれません。
(とはいえ、伏字部分は明らかに検閲の影響だと思われるので、それなりの統制はされていたはずだと思われるのですが)
ラストの父(中村少将)と子の会話シーンでは、父が世代間ギャップを感じて終わるという、なんとなく意味深な感じがする終わり方でしたが、僕もまさに後世の人間としてこのギャップを感じました。
「……乃木希典将軍って誰?」
――ということなのですが。
軽く調べてみましたが、作中で描かれている日露戦争など、軍神として名を馳せた人みたいですね。
「乃木坂」の地名の由来はこの人の名前が由来らしく、では、アイドルグループの「乃木坂46」の生みの親? というか、おじいちゃん的存在? みたいに連想してみると、ちょっとおもしろく感じました。
本作で描かれている乃木将軍像は、典型的な権力者といった感じで、欺瞞的であまり好感は持てません。
いつの時代でも、目下の者は軽く扱われて、上の人は自分の地位や権力を守るためだったら、簡単に下を切り捨てるのかな……などと思えば、やっぱりいい気持ちはしないんですよね。
いま話題の「日大アメフト問題」をふと思い浮かべてしまいました。
(話が逸れますが、「日大アメフト問題」は本当にひどいですね。もちろん、こういった権力構造はどこにでもあるのでしょうが、ここまで表ざたになってしまうと、本当に呆れるしかありません。日大すべてが悪いわけじゃないのだとは承知していますが、本当にひどいです)
しかしながら、これは一面的な見方であって、兵士たちの命を軽く扱うような命令は許されていいことではありませんが、しかしまったくの悪人なんて、この世界にはいないのだということも思います。
権力者も、その家族、友人などにとっては必ずしも悪い人ではなくて、むしろやさしい善人であることもたぶん結構多いわけで、やっぱり個人が悪いというよりは、戦争や権力といったものが悪いのかな、って気がします。
当然、個人の責任だって追及されてしかるべきで、被害者からすればそこにしか気持ちのやり場はないわけですが、人間が抗うことのできない巨大な流れ、運命的な何か、というものが、たしかにあると感じられます。
理不尽を許してはいけないのよ。
――みたいな?
本作が言いたいのもまさにこのことなんじゃなかろうか、などと僕は感じたわけで、しかし自分が被害者になったとき、そんな心境になれる自信はまったくないような、そんな今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
乃木坂の乃木は乃木将軍の乃木だって知ってる?
狐人的読書メモ
・国のため、家族のため、命を捨てられるか、と考えたとき、冷たいようだけれど、正直それはできないように、僕は感じてしまう。アリとかハチとかは、個々の自我を持っておらず、集団の自我(超自我)を共有しているという考えがあって、だから群れのために進んで命を投げ出すような行動ができるのだといわれているけれど、そういった本能的な利他行動と自我とが共存しているのが、人間のジレンマの一つになっているのだろうか、とか思いめぐらせ始めると……なんだか不思議な感じが、いつもするのだという、何が言いたいのかよくわからない余談。
・『将軍/芥川龍之介』の概要
1921年(大正10年)1月、『改造』にて初出。本作は芥川作品の中でもかなり異質なものであるらしい。芥川の将軍批判は、当時の人々に、完膚なきまでに批判されたという。それもまた時代のギャップというものなのかもしれない。
以上、『将軍/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
【140字の小説クイズ!元ネタのタイトルな~んだ?】
※オリジナル小説は、【狐人小説】へ。
※日々のつれづれは、【狐人日記】へ。
※ネット小説雑学等、【狐人雑学】へ。
※おすすめの小説の、【読書感想】へ。
※4択クイズ回答は、【4択回答】へ。
コメント