狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『秋/芥川龍之介』です。
文字数12000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約31分。
姉妹は同じ人を好きになってしまった。姉は妹の幸せを思い身を引いた。しかし人を好きな想いは簡単には捨てられず。そんな姉の態度が妹を苦しめてしまう。ポリアモリー的関係目指してみる?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
女子大時代から才媛の名声を得ていた信子は従兄の俊吉が好きだった。二人は同じ小説家を目指していて、話も合い仲がよく、やがて結婚するだろうことは周知の事実――が、信子が結婚したのは別の男だった。
大阪の商社マンのところへ嫁いだ信子は、一通の手紙を読んでいた。それは家を出るとき妹の照子がくれた手紙だった。御姉様は私の為に……。照子もまた俊吉のことが好きだったのだ。
信子は妹の幸せを思って身を引き、照子は姉の気持ちを知っていた。信子は妹の少女らしい手紙を読むたびに涙した。
はじめは幸せだった信子の結婚生活も、しだいにそうではなくなっていった。夫は信子が小説を書くことを嫌がり、家計についての文句などを言うようになっていく……
翌年の秋、信子は夫の出張に同行し、久しぶりに東京へ帰ってきた。妹夫婦の新居を訪ねると妹は留守で、妹の夫が信子を出迎える。俊吉だった。二人は昔のように会話を楽しむが、信子はふとした沈黙の間に、彼の顔を窺わずにはいられない。
やがて照子が帰ってくると、姉妹は再会を喜び合う。その日、信子は妹夫婦の家に泊まることとなり、夕食の後、俊吉と二人、月夜の庭を散歩する。照子は夫の机の前で、ぼんやり電燈を眺めていた。
翌日、用事で外出する俊吉は、自分が帰宅するまでいるよう信子に伝えて、出かけていった。姉妹二人きりで楽しいおしゃべりの時間を過ごしていたが、照子はふと、姉の打ち沈んだ様子に気づく。
信子は幸せそうな妹が羨ましかった。照子は姉の結婚生活が幸福ではないことを察して泣いた。照子は姉と俊吉が昨夜庭を散歩したことに嫉妬していた。信子は泣き止もうとしない妹に、残酷な喜びを感じていた。
二、三時間後、信子は幌俥の上に揺られていた。妹が泣き止むと、二人はまた元通りの仲のよい姉妹に戻った。が、すでに妹とは永久に他人になってしまったような感覚を、信子は胸の中で感じていた。
俥のすぐそばを俊吉が通り過ぎていく。信子は一瞬声をかけようとしたが、結局それができなかった。
「秋――」
信子は全身で寂しさを感じながら、しみじみそう思わずにはいられなかった。
狐人的読書感想
とてもおもしろかったです。
姉の信子と妹の照子は、従兄の俊吉を好きになります。妹の気持ちを知っている信子は、妹の幸せを思い身を引きます。
しかし人を好きになった気持ちというのは、容易に拭い去れるものではなくて、信子は照子の前であからさまにそれを出してしまい、照子は罪悪感と嫉妬心から姉の前で泣き出してしまい――
誰かのために重大な決断をすることの難しさを思います。
誰が悪いとかいう話じゃないのかもしれませんが、どうしても姉の信子を批判的に見てしまう自分がいます。
妹の幸せを思っての自己犠牲の精神はとても尊いもので、恋心をどうしても捨てきれない女性の気持ちもわかるつもりなのですが、中途半端なことしちゃダメでしょ……みたいな。
妹の幸せを思ってしたはずの行動が、妹に罪悪感を植え付けてしまう結果となり、結局妹を不幸にしてしまっているような気がして、本末転倒というかなんというか……。
そもそも本当に信子は、照子のためを思って好きな男から身を引いたのか、そこさえ疑問に思ってしまうんですよね。
姉として妹のために自己犠牲したという自己満足だったんじゃね、って、ひねくれものの僕はうがった見方をしてしまいます。
もしも続編があるとしたら、この先どうなるのか……、ちょっと気になる作品です。
もしも姉が離婚したりなんかしたら、妹の罪悪感はよりいっそう深いものになるでしょうし、姉と妹がこのまま疎遠になってしまうのもなんだか寂しい気がしますし、意外と時間が解決してくれる問題なのかもしれません。
最近はポリアモリーなんて言葉を聞きます。
「複数の人を愛する性質を持った人」のことを指すみたいですが、僕が見たのはパートナー公認で別の異性ともお付き合いしている人(既婚者)で、多夫多妻みたいな感じでした。
本人たちが納得しているならいいのかな、って気がしますが、嫉妬心とかどうしてるんだろうなあ、って不思議な感じもして、しかし少子高齢社会である日本では、ひょっとしたら子どもが増える一助になるかもしれず、悪い流れではないのかもしれない、なんて考えたりもします。
しかし、子どもの立場からすれば、親に別のパートナーがいて、さらにそのパートナーとの間に生まれた片親違いの兄弟姉妹がいるという状況は、複雑で受け入れがたいものになるかもしれませんね。
小さいときから徐々に教えていくことで、そういった考え方に違和感を覚えない子どもを育てることも、可能なのかもしれませんが――
信子・照子・俊吉の三角関係も、そんな感じで丸く収まる続編を、ちょっと想像してしまった、今回の読書感想でした。
読書感想まとめ
姉妹と従兄の三角関係、ポリアモリー的未来予想。
狐人的読書メモ
・本作は、2016年6月5日放送の『林先生が驚く初耳学!』でも取り上げられていたらしい。昔の共通一次試験(センター試験)の問題として出題された。授業で使うと男子の点数がめちゃくちゃ悪く、女子の、とくに姉の点数はめっちゃ良い、らしい。
・『人間の生活は掠奪で持つてゐるんだね』という俊吉の言葉が作品にマッチしていて深い。他にも情景描写と信子の心情がリンクしていて、本当にむだがないTHE短編小説、すごい……。
・グウルモンの警句の辺りは最近何かと話題になっている女性蔑視をイメージした。「大相撲女人禁制騒動」「財務省セクハラ騒動」とか。
・『秋/芥川龍之介』の概要
1920年(大正9年)4月、『中央公論』にて初出。『夜来の花』(新潮社、1921年-大正10年―)にて初刊。姉妹と従兄の三角関係を描く。むだがないTHE短編小説。芥川龍之介の転換点となった近代心理小説で、評価がとても高い。著者自身の初恋、吉田弥生(青山学院英文科卒業の才媛)との交際・破局がモチーフとの考察がある。おすすめできる。
以上、『秋/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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