狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『蜘蛛となめくじと狸/宮沢賢治』です。
文字数8500字ほどの童話。
狐人的読書時間は約26分。
生き物はみんな地獄行きのマラソン競争をしてる。だけどこの地球こそが地獄だと感じる。蜘蛛から食品ロスを、なめくじから偽りの親切を、狸から悪徳宗教を学ぶじゃ、むにゃむにゃ。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
蜘蛛となめくじと狸は、それぞれにそれぞれの生き方をしていたが、それは地獄行きのマラソン競争をしているようなものだった。蜘蛛暦3800年にまず蜘蛛が亡くなると、その次の年にはなめくじが、さらに次の年には狸が相次いで亡くなった。
蜘蛛は巣をはって、蚊やかげろうなど、巣にかかった他の虫を食べて暮らしていた。虫たちの命乞いを無慈悲に退け、容赦なく食らい、200匹の我が子のうち198匹が命を落としても、無情にそのことを忘れた。あるとき、ひょんなことから必要以上に多く食べ物を捕りすぎたため、それらが食べきれずに腐敗し、その腐敗が蜘蛛の一家に伝染して、体が腐って亡くなった。
なめくじは親切だと評判だった。が、その親切を頼ってきた、かたつむりを相撲で弱らせたり、治療と称して、とかげの傷を舐めて溶かしたりして、食べた。あるとき雨蛙がなめくじを頼ってやってくる。なめくじは雨蛙の望みを聞いて水を与え、さっそく相撲に誘う。雨蛙は土俵に塩をまき、溶けかけのなめくじをペロリと食べた。
狸はお腹を空かせた兎がやってくると、山猫大明神の教えを説いた。みんな往生じゃ、なまねこ、なまねこ。極楽往生を望む兎は、なまねこ、なまねこ、と続けて唱え始めた。狸はそんな兎を食べた。兎は救われると信じて狸に食われた。狸はつぎにやってきた狼にも説教して、食べた。狸はお腹の病気になって亡くなった。
狐人的読書感想
地獄行きのマラソン競争をしているのは、なにも蜘蛛となめくじと狸ばかりではないのだと、ふと思わされてしまいます。
全生物にとって、生きることはまさに、「地獄行きのマラソン競争」。
食物連鎖――とくに食べるということに関しては、地球上で生きる生命であるならば、すべからく逃れることのできない業(行い)であると、いえるのではないでしょうか?
この童話は「地獄行きのマラソン競争」について描かれていますが、この地球こそが一つの地獄なのではなかろうか、なんて、ちょっと怖いことを考えてしまいます。
生き物は他者を食らい、また他者に食われて――地球という星の中で、全生命が食ったり食われたりを果てしなく繰り返しているのが、すなわち生きるということなのですから、食われる苦しみを与え、与えられるために生きているのだと想像してみると、本当にこの地球こそが地獄のような気がしてくるんですよね。
そんな地獄に生きる者たちの中でも、とくに人間の業(悪業)は深い、という気がしてしまいます。人間だけが、なきがらを焼いて処理して骨にして土に埋めて――えてして食物連鎖の食われる苦しみから逃れている、ということができるのではないでしょうか?(鳥葬や不慮の事故など例外もありますが)
しかしながら、このようにつらつら考えてみると(考えてみずとも)、生き物が食べたり食べられたりするのは当たり前のことであって、それに罪悪感を抱いてしまう人間の心というものは、本当に不思議だと感じます。
『蜘蛛となめくじと狸』も、それぞれの生き物のかたちだけを借りているだけで、やはり人間が描かれている作品だといえます。
ひとりずつ見ていきたいと思います。
まずは蜘蛛です。
「虫たちの命乞いを無慈悲に退け、容赦なく食らい、200匹の我が子のうち198匹が命を落としても、無情にそのことを忘れた」
――というあたりは、無慈悲、容赦なし、無情、残酷……、人間からするとそんなふうに感じられるかもしれませんが、しかし知性のない蜘蛛にとって、あるいはまた食べなければ生きていけない生き物にとって、それは当然のことでしかないはずなんですよね。
200匹のうち198匹が命を落としても、すぐにそのことを忘れてしまう親というのは、人間であれば悲しくてやりきれないことに違いありませんが、生存競争の厳しい自然界においてはやっぱり当然の成り行きでしかないんですよね。
人間が蜘蛛のようにたくさんの子どもを生む生き物で、その子どもたちのほとんどは大人になれないような環境に生きているのだとして、それを全部悲しんでいたら、本当に生きていくのがつらくてつらくてたまらないだろうな、などと想像してしまいます。
だからそこに業はなく、ではどこに業があるのかといえば、それはやはり「必要以上に多く食べ物を捕りすぎた」ところにあるのでしょうね。
日本でも食品ロスの問題があったりしますよね。人間、生命を無駄に扱う行為は、やはり悪業であると感じられて、それは他の生物でも例外ではなく、食べきれなかった食べ物の腐敗が、やがて捕食者に感染し、その命を奪ってしまうというのは、それも因果というか、食物連鎖のひとつを表しているように思えるんですよね。
「必要以上に食べ物をとりすぎて、生命を無駄に扱ってはいけない」というところが、蜘蛛の伝奇に含まれる教訓だと、僕はとらえましたが、食べ物も豊かな先進国・日本だからこそ、身に染みる教訓だと感じます。
つぎになめくじです。
これは「親切なふりで他人を欺いてはいけない」ということだと思います。
とはいえ、人間から見ると騙しているように捕食する生物というのは少なくなくて、これもやっぱり自然界では当然のことで、だけど人間の世界ではやってはいけないことだと言っているんでしょうね。
必要なら騙していいのか、ウソをついていいのか、みたいな話も絡めると、かなりむずかしいことのように感じてしまいます。
俗にいう「優しいウソ」が許されるか否かといった命題は、賛否が分かれるような気がしますが、「人間社会を円滑に生き抜くために必要なウソはある」となると、ほとんどの人の賛同を得られるように想像するのですが、はたしてどうなのでしょうね?
最後に狸です。
これは明らかに悪徳宗教を批判しているように感じられるのは、僕だけ?
悪徳宗教でなくとも、宗教を食い物にしているような行いというのは、一般的な宗教全般についてもいえることなのではないか、と考えてしまいます。
現代の宗教は職業でありビジネスである、という一面は、否定しがたいことのように、狐人的にはとらえています。
それが良いことなのか悪いことなのか、というところに関しては、とくに意見を持ち合わせてはいないのですが……。
しかし宗教的な教義を利用して、弱っている人の心のすきまにつけいるようなことは、許されるべきではないのだと、やはり単純に思ってしまいますね。
本人はそれで幸せだと思えたとしても、その家族や友人、周りのひとに及ぶ迷惑のことを思えば、なおさらそのように感じてしまいます。
「人の心の弱みにつけこんではいけない」というのが、狸の伝奇の教訓でしょうか……、狐人的には「つけこまれないための強い心を持ちたい」という教訓も、そこに見出さずにはいられませんでしたが、それがなかなかにむずかしく感じていたりもいます。
さて、それぞれの教訓について長々と語ってしまいましたが、そんな教訓を感じずとも、『蜘蛛となめくじと狸』は物語として、とてもおもしろいです。
なんというか、たとえば『進撃の巨人』とか『東京喰種』とか、刺激的な内容というかグロテスクなものに、人間やっぱり惹かれてしまいますが、これらの作品にも似たグロさが、『蜘蛛となめくじと狸』にもあると思います(完全なる狐人的独断的見解ですが)。
人間性や食物連鎖というテーマは三作品ともに通底していますしね。未読で興味を持たれた方にはぜひ読んでみてほしいです。
読書感想まとめ
「必要以上に食べ物をとりすぎてはいけない」
「親切なふりで他人を欺いてはいけない」
「人の心の弱みにつけこんではいけない」
狐人的読書メモ
・蜘蛛となめくじと狸の中に同居する、人間性と非人間性が興味深い。人間性と非人間性の同居、つまりそれこそが人間なのだと感じられる。
・楽しみのために生命を奪うことについても考えさせられてしまう。たとえば生け花とか魚の活け造りとか……、できるかぎり苦痛を与えず命をいただくということは、人間だからこそできる最大限の慈悲だと思った。
・「親切なふりで他人を欺いてはいけない」すなわち「親切には裏がある(詐欺)」ということを常に意識しておきたい……、けど疑心暗鬼を生むこともあるんだよなあ……(どないやねん)。
・機動性のために殻を捨てて――かたつむりの進化系がなめくじだということを、この度初めて知った。なんとなく「まよいマイマイ」を連想した。
・山猫大明神さま、念猫――すなわち山猫教? おもしろい発想だと思った。なまねこ、なまねこ。むにゃむにゃ。
・「ナンペ」という蜘蛛文字のマークは韓国語で「狼狽」のこと?
・以前『なめとこ山の熊/宮沢賢治』の読書感想で、その作品が『ユリ熊嵐』というアニメのモチーフになっていることを知ったのだが、本作は『輪るピングドラム』に通じるところを感じた。生存戦略(?)
・『蜘蛛となめくじと狸/宮沢賢治』の概要。生前未発表作。『新編 風の又三郎』(新潮文庫)などに収録。のちに推敲後、『洞熊学校を卒業した三人』と改題して発表されている。生きることは地獄行きのマラソン競争である。
以上、『蜘蛛となめくじと狸/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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