狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『画の裡/泉鏡花』です。
文字数5000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約12分。
ケチなお金持ちのところに、絵師の怪異が現れて、
皮肉っていくお話。
絵(マンガ、ゲーム)の中に入りたい!
って思う?
不景気な社会は、現実逃避願望に影響している
って思う?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
著者は(昔の中国の?)ある文献を紐解いている――
徐羣夫は、金持ちの田舎大臣で、楼台亭館という大きな館に住んでいる。どこの誰かはわからないが、媚びへつらいの連中を目の前に並べて、傲然とふんぞり返っている様子が想像できる。
御威光となっている金屏風は豪華だが、客に供される膳は、青い里芋の茎の酢和え、酒は安い濁酒――いかにも貧相だ。
そこへ下男がやってきて「旦那様、絵描きだという者が参りまして、お目にかかりたいと申しております」と伝える。
徐大尽は「田舎まわりの絵描きと乞食に違いはない」として、取り合うつもりはなかったが、客たちの「ちょっとからかって遊んでやりましょうよ」という言葉を受けて乗り気になり、絵描きを通すよう下男に命じる。
現れた絵描きはいかにもみすぼらしい男だった。皆がわざと慇懃な態度で「先生、ぜひとも御作を拝見したい」などとおだてると、絵描きは「未熟ではございますが、ご覧ください」と、絹地に書いた大作を披露した。
壁へかけられたその絵に描かれていたのは、ここ、楼台亭館だった。それは西洋画のような見事な絵で、皆が意外に思った。
「そんなふうに門が閉まっていては出入りもできない。そもそもわしの許しがなければお前はここへ通れぬわけだ。自分の手で描きながら、出入りもできぬのだから、絵描きはまったく不自由なものだな」と、徐大尽はフンと鼻を鳴らした。
「見事な鑑定」、「おっしゃるとおり」と、すかさず太鼓持ちが追従を言う。が、絵師は「我が手で描きましたもの、あなたのお許しがなくとも、開け閉めは自由です」。
「馬鹿にするな!」と徐大尽が憤慨しかけたとき――絵師がひたと絵に向かって、じっと見ると、絵の館の門が開く。つぎの瞬間、絵師の身体は絵の門をするりと潜り、再び門は閉ざされる。
皆、あ然とし、「先生、先生」と、どよめきたつ。
すると「失礼、ただいま」、絵師は絵の門から飛び出してきた。そして「一緒においでなさい、ご案内しましょう」。皆驚き、しかし喜んで絵の門の中へと入っていく。
絵師に案内されて、豪奢な館内を回る。戸を一つ開いて、室内にある珍しくて立派な置物に、皆呆然として口を利くこともできない。
「さて、最後です」と、絵師がそこにもう一つあった美しい扉を開けようとする。徐大尽は慌ててそれを止めようとしたが、遅かった。
そこは徐大尽の美妻の寝室だった。徐大尽の三人目の若い妻は、一糸まとわぬ姿で昼寝をしていた。一同、わっと寝室になだれ込もうとしたとき、元の大広間に戻った。
徐大尽は急いで妻の寝室へ駆け込んだ。妻は赤くなって、身づくろいをしているところだった。怒りにふるえて取って返すと、絵師もその絵もどこへやら……残るは里芋の茎の酢和えだけだった。
狐人的読書感想
徐大尽はとてもえらそうにしていて、みんなに阿諛追従させていい気分になっているのに、ふるまっている酒と料理はとても貧相なものです。
そこに絵師がやってきて、見せた絵は徐大尽の館である楼台亭館。
みんなを絵の中に誘い入れて、豪華な館内を案内して回り、最後には一糸まとわぬ徐大尽の美妻の姿をさらしてしまうという――えらそうなくせにケチなひとを皮肉っているんですかね?(そういえば、徳川家康もけっこうなケチだったそうですね)
そのための富と貧の対比の描写が見事に思えて、ユーモアが感じられるお話でした。
人間が絵の中に入る、という設定に興味を持ちました。
可笑しい話であって、怖い話ではないのですが、これはやはり怪異譚だといえそうです。絵の中に入るのは絵師の力のようなので、では、この絵師は妖怪的な存在なのかと思い、ちょっと調べてみたのですが、「絵の中に入る力を持った妖怪」というのは見つけることができませんでした(中国っぽいお話なだけに、やはり中国の妖怪なんですかね?)。
絵の中に入ってみたい、と思ったことのあるひとは、けっこう多いのではないでしょうか? 絵というとあれですが、マンガだって絵ですし、ゲームだって絵だといえますよね。
すなわち、マンガやゲームの世界に入ってみたい、と思ったことのあるひとは、けっこう多いと思うのですが、どうでしょうね?
現実逃避願望とでもいうんですかねえ……狐人的には、ここに思わされるところがあります。
現実逃避したいと思うときって、現実がつまらないとか、おもしろくないとか、あるいはいま一歩進んで、現実がつらいとか思うときだと考えるのですが、どうでしょう?
たとえば、戦国時代、戦で乱れに乱れた世を憂えて、貧しい農民などは現世への望みを捨てて、つぎの世界、極楽浄土へ行くことを希望にして生きていた、みたいな話を聞いたことがあります(浄土真宗でしたっけ?)。
近年でいうと、「異世界転生もの」なんてライトノベルのジャンルが流行ったのは、現代の若者世代(労働世代)の社会情勢への悲観が反映されている、なんて見方もあります。
バブル崩壊と少子高齢化のあおりをもろに食らっている現代の若者たち。
非正規雇用の台頭で、終身雇用神話は崩壊し、雇用は安定せず、いつ契約を切られるかびくびくしながら働いて、給料は上がらず、派遣なら卸しの商品のように給料からマージンを引かれ、税金は上がり、充分な年金がもらえるかもわからず、かといって現代の高齢世代や正規雇用全盛世代が既得権益を手放すはずもなく、富と年齢によって分断された社会で、若者たちは生きにくさを感じているのではなかろうか、なんてことを考えたりします。
もちろん、これは一方的な見方であって、単純に現代のマンガやゲーム、エンターテインメントが進化して、とてもおもしろくて、だから単純にその世界に入り込んで暮らせたら楽しそうだな、ってだけなのかもしれませんが。
とはいえ、このあたりが、草食系とか絶食系とかの根本としてあるような気がして、より少子高齢化に拍車をかけているように思えてならないのですが、どうなのでしょうね?
いつか、仮想の世界でいつまでも暮らせる技術が確立したとしたら――肉体は機械によって維持されて、みんなが自分だけの好きな世界に閉じこもって生きられるような、そんなSFみたいな未来を想像してしまうのですが、そうなったらいいのになあ、とか考えてしまうのですが、僕だけなのですかねえ……。
なんか、とりとめのない読書感想(?)になってしまいました(この話になるときはいつもかあ……いまだ漠然としか書けません……)。
読書感想まとめ
絵の中に入ってみたい!
狐人的読書メモ
絵の中に入るという(怪異)設定は創作にも使いやすいように思う。江戸川乱歩の『押絵と旅する男』を思い浮かべたが、ほかにもこの設定を活かした物語が多数存在するような気がしている(パッと思い浮かばないのだが……)。
……VR(ヴァーチャルリアリティ)も絵の中に入っていることになるのかな?
・『画の裡/泉鏡花』の概要
初出不明。『畫の裡』。泉鏡太郎名義。怪異譚だが怖さはない。ユーモラスな話。絵の中に入る怪異に興味を持つが、そのような怪異を見つけることができなかった。どこかで聞いたことがあるような気はしているのだが……。
以上、『画の裡/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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