狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『運命論者/国木田独歩』です。
文字数22000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約52分。
ある運命論者は語る。
人は運命の力から逃れることはできないのだ、
と。
運命の出会いって感じたことある? ビビッときた?
だけど、ビビッとこない運命の出会いもあるんだって。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ある運命論者の語る話。
彼は幼少の頃から家に身の置き所がないような、違和感を覚えていた。法律学校に通い出してまもなく、思い切って父に尋ねてみた。
「私は本当に父様の子なのでしょうか?」
すると彼の父は打ち明けた。彼は父の親友の子だった。彼の幼少より抱いていた疑問は解消された。
以来、彼は養父母に恩義を感じるようになり、よりいっそう敬愛し、勉学に励むようになる。
月日が経ち、彼は弁護士になった。そして25歳のとき、訴訟の仕事である雑貨商に通うようになり、そこの女主人の一人娘と恋に落ち、婿養子に入るかたちで結婚する。
妻と義母との生活が始まるが、義母には奇妙な習慣があり、それは不動明王を一心不乱に拝むことだった。
その信仰は、彼と娘の結婚後、日に日に激しくなっていき、ついには彼にも不動明王を信仰するよう勧めてくる。
彼が理由を尋ねると、義母には近頃怨霊が見え始め、どうやらその怨霊が、彼にとり憑いたらしいというのだ。
怨霊にそっくりだと言われても、彼は困惑するしかない。
あるとき、彼は仕事の用事で山口に立ち寄ることになった。そこは実父母の墓がある地だった。
彼がはじめて実母の墓参りに訪れてみると、そこに母の名が見当たらない。寺の老僧に話を聞いてみると、母は病気の父と生まれたばかりの子供を捨て、男と駆け落ちしたのだという。
父は最後まで母を恨み、そして亡くなった。
彼はある疑念を抱いた。いや、それは確信と呼べるものだった。
妻が泣いていた。義母に彼と離婚するよう言われたという。彼は義母を問い詰めた。
「離婚しろという理由を聞かせてください。私が怨霊の子だからでしょう!」
義母は顔色を変えて部屋を駆け出していった。
義母は彼の実母だった。父の仇の女だった。
そして最愛の妻は――彼の父違いの妹だったのだ。
運命論者は語る。
離婚しても、生みの母が父の仇である事実は消えない。妹を妻として愛する自分の愛は消えない。人の力をもって、過去の事実を消すことのできないかぎり、人は運命の力から逃れることはできないのだ、と。
狐人的読書感想
まさに運命のいたずら、運命の残酷さを感じさせられる小説でした。
「出生の秘密」ということが、この作品のひとつ重要な題材となっていますが、著者の国木田独歩さん自身にも、出生の秘密と思しき事実があり、そのことについて思い悩んだことが、性格形成に大きく影響したのだといわれています。
自分が両親の本当の子供ではないかもしれないと、疑うことって誰にでも一度くらいはあることなのでしょうか?
そう想像してみると、どこかに生き別れの兄弟姉妹がいるのかもしれず、その兄弟姉妹と知らないうちに出会ってしまい、恋に落ちてしまうかもしれない――考えてみると、運命の恐ろしさのようなものを感じられる気がします。
出会った瞬間にビビッときた、みたいな、雷に打たれたように電気が走った、みたいな、そんな一目惚れとでもいうべきシチュエーションを「運命の出会い」としてイメージしますが、最近では出会ってから交際、そして結婚までがトントン拍子に進むことに運命を感じる人も多いそうです。
むしろ、そっちのほうが運命だ、という向きもあるようですが、どうですかね?
ともあれ、そんなふうにして結婚した相手が、じつは生き別れの兄弟姉妹だったとしたら、それほどショックなことはないでしょうね……やっぱりドラマの中でしかないように思ってしまいます。
最近では、アニメやゲームやマンガとかで、妹萌えという言葉を聞くこともありますが、現実には兄弟姉妹に恋をすることはない(ありえない)、という話もよく聞きますね。
一緒に生活する環境とか、遺伝子的な働きが、そのような感情を抑止しているといわれていますが、禁忌だからこそ人の心は惹かれてしまい、だからこそ物語としては受け入れられているのかな、と思えば、なんだか不思議な感じもします。
テーマ的には、現代のラノベ好きの人とかにおすすめしてみたい気もするのですが、やっぱり趣が違うような気もしますねえ……どうでしょうね?
運命論者といえば、経営の神様と呼ばれる、パナソニックの創業者・松下幸之助さんは「人間90%が運命やな」と考えていたという話がありますね。
とはいえ、だから努力しても無駄ということではなくて、残りの10%が人間にとっては大事だといいます。
要するに、人間は運命だからと努力を怠ってはならず、しかし努力したからといって成功すると思ってもいけない――結局のところ一生懸命生きるしかないんだよ、ということのようです。
『運命論者』の彼は、最後「運命だから」とすべてを諦めているんですよね。
気持ちはとてもよくわかるのですが、だけど何も知らずオロオロと、母と夫の世話を焼く妻(妹)のことを思えば、現状をよりよくするための努力をしてほしいな、と単純に思いました。
現状をよりよくするための努力をしてほしいな、と、僕は、僕自身にも言うべきだと気づきました。
彼と僕とでは全然境遇が違いますが、現状をよりよくするための努力って、なかなかどうしてむずかしいですよね……(とか、言ってる場合じゃない!)。
読書感想まとめ
現状をよりよくするための努力をしよう。
狐人的読書メモ
遺伝子、社会システム、プログラム――物事があらかじめ決められているという、運命を考えることがある。個人は全体のために決められている役割をはたしているにすぎないのだと感じることがある。とはいえ、現状をよりよくするための努力をする、それが生物個体が生きるということである、というところについては否定の余地はないように思える。それが仮に無駄な努力であったとしても。
・『運命論者/国木田独歩』の概要
1903年(明治36年)『山比古』にて初出。著者、国木田独歩の生い立ちが反映されている。運命のいたずら。ある残酷な運命について。
以上、『運命論者/国木田独歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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