狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『黒手組/江戸川乱歩』です。
文字数18000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約50分。
暗号文、消えた足跡。
黒手組に誘拐された娘を取り戻せ!
明智小五郎の活躍!
月下氷人という語が美しく、消去法推理が興味深く、
そこからなぜかパンダが笹を食べる理由をお話します。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
私の伯父の愛娘が黒手組に誘拐された。私は親友の明智小五郎にこの事件を相談する。明智はさっそく伯父の話を聞くことになる。
事の起こりは十三日、夜になっても娘が家に帰らなかった。方々探してみたが、本人はもちろん手がかりさえ見つからない。すると翌日、家の郵便物を取りまとめている書生の牧田が、黒手組からの脅迫状を持ってきた。
内容は、娘を誘拐したこと、十五日の午後十一時に身代金の受け渡しをすること、警察には黙っていること――黒手組といえば有名な盗賊団、娘の身を案じた伯父は、その指示に従うことにする。
小男の書生牧田を一人連れて、伯父は約束の一本松へ向かった。牧田を草むらの中に待機させ、伯父は懐中電灯を片手に一本松の下まで移動した。三十分後、真っ黒な着物を着た人物が現れ、身代金を受け取って去っていった。
伯父は相手に気を遣い、慌てて懐中電灯を消してしまった。しかしその人物は、背の高い伯父よりも、さらに背が高い男であったのは間違いないという。
こうして身代金の受け渡しは無事に終わったのだが、約束の翌日になっても娘は帰ってこなかった――。
明智が気にしたのはまず足跡。牧田の機転ですぐに現場を調べてみたが、犯人らしき者の足跡はなく、伯父と牧田の二人分しかそれは見つからなかった。
つぎに娘宛の手紙。娘が失踪した前日、娘宛にハガキがきていた。しかしそれは友人かららしき、たわいもないものだった。
それから二日後、明智は無事娘を連れ帰ってきた。黒手組と取引をしてきたので、事の次第を明かすことはできないのだと明智は言った。それでも娘と身代金が帰ってきたので、伯父は大喜びだった。謝礼金を支払い、明智の奇妙な頼み事にも色よい返事を返した。
明智は親友の私には真相を明かしてくれた。今回の事件に黒手組は一切かかわっていなかった。
娘宛のハガキには暗号で駆け落ちの約束が記されていた。つまり娘の失踪はただの駆け落ちだったのだ。
それを利用したのが書生の牧田だった。家の郵便物を取りまとめている彼は、家族を心配させないよう娘から送られてきた手紙を隠し、それを見て今回の偽装誘拐事件を思いついた。
牧田は小柄な体に似合わぬ大きな兵児帯をしていた。身代金受け渡し時にはそれを体に巻きつけて身を隠した。さらに兵児帯の中に短い竹馬を隠し持ち、それを下駄に装着して身長を偽った。足跡を調べる機転を利かせたのも、辺りを探るふりをして竹馬の跡を消すための時間稼ぎだったのだ。
娘の恋人はクリスチャンで、伯父はそれが気に入らず、結婚を許そうとしなかったが、明智の頼みごとを聞いた以上は、もはや結婚を許さないとは言わないだろう。
牧田は好きな女の身請けのためにどうしても金が必要だったという。明智は謝礼金を私に託し、牧田にあげるよう頼んだ。恋ゆえにやったこと、可哀相な男だと明智は同情した。
それにしても人生はおもしろい。この俺が、今日は二組の恋人の月下氷人を勤めたのだから。明智は心から愉快そうに笑った。
狐人的読書感想
明智小五郎もの。『D坂』の語り部である「私」が、やはり語り部として登場する本作『黒手組』もおもしろかったです。
あらすじではカットしてしまいましたが、冒頭に記されている娘へのハガキの全文、これが暗号文になっているのですが、僕には解読できませんでした。
たぶん暗号ってパターンみたいなものがあるんでしょうねえ……、似ているものを知っていたりするとたまにわかるときがありますが、ほとんどの場合にはわからないので、プラスアルファ直感力が必要だという気がします。
考えるほうもすごいし、解くほうもすごいなあ、などと感心するばかりですが、どっちのほうがすごいのかなあ、ということをいつも素朴な疑問として思うのですよね。
ぜひとも本文を読んでチャレンジしてもらいたい、本作の見どころの一つです。
今回は珍しく、ハガキ以外のトリックと犯人はわかったのですが、事件の真相がちょっと違っていましたね。
娘と牧田が恋人同士で、駆け落ち資金を得るための狂言誘拐かと思ったのですが、二人には別々の恋人がいて、それぞれの思惑で動いていたというところは想定外の事実でした。
さすがは江戸川乱歩さん、などと僕は素直に感心してしまったのですが、のちのエッセイによれば、ご本人としては納得のいく出来ではなかったそうで、相変わらずのストイックさを感じさせます。
この作品の中で一番興味を覚えたのは、解決編で明智小五郎が見せた消去法的な推理でした。
身代金の受け渡し現場に犯人と思しき男の足跡がなかった理由を、
第一に、捜査者が見逃した
第二に、ぶら下がり、綱渡り
第三に、伯父か牧田が消した
第四に、犯人の履物が伯父か牧田と同じだった
第五に、伯父が犯人だった
第六に、牧田が犯人だった
と挙げていき、可能性の低いものから消去して、最後に第六が残り牧田が犯人だったとわかるのですが、今日子さんの網羅推理を彷彿とさせるところです。
てか、ミステリーに詳しい人ならば、シャーロック・ホームズのほうを思い浮かべるのが本来的なようですね(『全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる』)。
明智小五郎も今日子さんも、あるいはこの流れをくんでいるのかもしれません(たぶんそうでしょう)。
消去法といえば選択式のテストくらいしか利用することがないように思っていましたが、意外と有効活用できる場面がほかにもあるんですかねえ……、とはいえ自分が何らかの事件に巻き込まれて消去法推理を披露する場面などはまったく想像できませんが……。
さらに、消去法といえばパンダを思い浮かべてしまいました。
パンダは熊の仲間ですよね、もともと肉食なのに、なんで笹しか食べないんだろう? という疑問の答えが、他の肉食獣との争いを避けるため、消去法で残った、動物があまり食べない竹や笹を食べるようになったからだといいます。
消化器官は肉食のものなので、栄養の吸収効率は高くないらしく、このことでパンダは一日中食べていなくてはならなくなりました。しかもこれにより、腸粘膜を再生するためパンダは月に1,2回必ず腹痛を起こすそうです。
消去法的に残り物を食べるようになったのかと思えば、なんだか切ないような気持ちにもなりますが、しかし平和のために取った食性と捉えれば、可愛い見た目と相まってますます好きになりそうです。
……てか、いったい何を書いているんだ? ――というのがオチにもならない今回のオチです。
読書感想まとめ
おもしろい。暗号が難しい。消去法推理からのパンダ。
狐人的読書メモ
暗号を作る人と解く人とでは、解く人のほうがすごいように感じる。ミステリー小説を書く人と解く人とでは、書く人のほうがすごいように感じる。この違いはなんだろうか? そう思うのは僕だけだろうか?
・『黒手組/江戸川乱歩』の概要
1925年(大正14年)3月『新青年』にて初出。明智小五郎もの。短編小説。ミステリー小説のおもしろさ。暗号の難しさ。消去法推理。著者としては出来栄えに満足できなかったらしい。
以上、『黒手組/江戸川乱歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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