狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『初孫/国木田独歩』です。
文字数2000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約9分。
新しい家族、初孫。
一家の中心でみんなを笑顔にしてくれる。
幸せファミリーエピソード。
二世帯家族いいなあ……、
しかし孫ブルー。
女性の社会進出や待機児童問題、
少子高齢化の現代を思う。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
父と母、私と妻と子供の五人家族。出産祝いをもらったお礼に私が書いた手紙。
この度は出産祝いありがとうございました。子供は順調に成長していて、かつての自分のように、もうすぐ童話の読み聞かせでもせがむようになるかと思うと、それを嬉しく、またちょっと寂しくも感じています。
父はすっかりおじいちゃん、まさに初孫は目に入れても痛くないといった様子。物静かだった妻は、最近口数が多くなってきて、子供を相手によくおしゃべりをしています。
私が「少し黙っていておくれ」と頼むと、「ほら、うるさくしちゃいけませんよ」などと子供をあやすのですが、私が黙ってほしいのは妻のほうだったので、ただただ苦笑するばかり。
母は再び子育てに奮闘中、妻が読まない育児書などを熟読し、あれこれと世話を焼いてくれます。あまりに熱心なので、母に妻がアドバイスするところなど、「まるであべこべだ」と父は笑っています。
一家にはいつも笑い声が絶えず、「笑う門には福来る」のことわざどおり、これからどんな幸福が舞い込んでくるだろう、と内心楽しみにしています。
そうそう、今度ベビーカーを新調しようと思っています。子供はすぐに重くなりますから、これで父も孫と楽に散歩ができるようになるでしょう。
父が子供のように喜ぶ姿を想像してみると、私まで嬉しくなってきて……、どうやら幸福は、すでに我が家に住んでいるようですね。
今夜は雨が降る静かな晩、父と子供はすやすや眠り、母と妻は笑いながら語り合い、どうやら子供のこと以外心配事もなさそうです。
狐人的読書感想
一家の幸せそうな様子がよく伝わってきますね。笑う門には福来る。子供が家族の中心にいて、いつもみんなを笑顔にしてくれて――子供が生まれてくるというのはこういうことなんだろうなあ、みたいな。
「私」はさっそく、子供の成長を悲しいようにも嬉しいようにも感じているようでしたが、僕もここには共感を覚えました(これを感じるにはちょっと早すぎる気がしないでもありませんでしたが)。
いずれ親から離れていく、子供の成長はその時期が近づいていくのと同じことで、それはやっぱり悲しいことのようにも嬉しいことのようにも思えるものなのではないかなあ、などと想像でものを言っていますが、どうでしょう?
あるいはペットなどでも、小さいものはかわいいので、思わず「ずっと小さいかわいいままでいてくれたらいいのに」などと考えてしまいますが、さすがにこれはエゴなんだろうなあ、とすぐに気づかされて反省するような思いがします。
「私」の妻はもともとおとなしく物静かな人だったようですが、子供が生まれるとおしゃべりになったみたいです。女は子どもを産むと変わる、といったようなことはよくいわれますが、「母になる=図太くなる」、ということがこの作品でも感じられます。
芥川龍之介さんの『あばばばば』を読んだときにもこのことを実感させられたのを思い出しました。
祖父母にとってもやっぱり孫はかわいいものなんでしょうねえ。初孫となればなおさら、おじいちゃんが孫にデレデレな様子やおばあちゃんがまた子育てに奮闘し出した姿は想像してみて微笑ましいです。
嫁姑問題はちょっとハラハラしてしまいそうですが、作中の関係は良好のようで、最近では二世帯で住まう家族というのは少ないのかもしれませんが、二世帯家族もいいよなあ、などと単純に思わされてしまいます。
とはいえ、「祖父母にとってもやっぱり孫はかわいいもの」だと思い込んでしまい、かえって祖父母に迷惑をかけてしまうといった問題も最近ではあるようですね。
孫ブルーというそうなのですが。
孫なんだからかわいいだろうし、むしろ一緒にいたいでしょ? ――などと思い込み、子供を預けて遊びに行ったり、仕事に行ったり、なんだかんだと甘えすぎてしまうと、それが祖父母には負担になっているのだといいます。
祖父母にとって、孫はかわいいという思いは前提としてあっても、体力がついていかない、孫のわがままに付き合い切れない、しかも自分の産んだ子供ではないので叱りにくく、孫を優先したり、世話で自分の時間が潰れてしまったり、責任感を重く感じてしまったり――など何かと疲れてしまうんだそうです。
晩婚化で祖父母になる年齢が上がってきていること、女性の社会進出や待機児童問題などもあって、孫ブルーのような社会問題が出てきているのだといいます。
女性の社会進出が進む現代社会だからこそ、祖父母は心強い味方、だけど、孫なんだからむしろ一緒にいられて嬉しいでしょ――そういった思い込みで甘えすぎてはいけないんでしょうねえ。
祖父母が趣味の時間を削ってまで孫の世話をしてくれたり、あるいは生活費や年金を切り崩してまで孫にいろいろと買い与えてくれたり、また「おばあちゃん」という呼び方に傷つくといったこともあるそうなのです。
さきほど「二世帯家族もいいよなあ」などと言ってしまいましたが、孫ブルーを思うと一概にそうとも言い切れない部分があるなあ、と考えを改めてしまいますね。
少子高齢化の現代だからこそ、二世帯の連携が重要だと感じますが、実際には物理的にも精神的にも、両者の距離は離れているのが現実なのかもしれません。
『初孫』のような家族を築いていくのにはどうすればよいのでしょう?
家族といえども、甘えない、気遣い、そのバランスの難しさ――そんなことが直接的に描かれているわけではないのですが、なんとなく考えさせられてしまう小説でした。
読書感想まとめ
祖父母と夫婦と初孫と、二世帯の家族に子供が生まれてきて、その子供が笑顔を運んできてくれて、子供を中心に幸せな家族があることを思わされますが、現代には孫ブルーのような社会問題があり、女性の社会進出や待機児童問題、少子高齢化など、いろいろな問題が複雑化していて、だからこそ家族の在り方が難しくなってきているのかなあ、なんて、漠然と考えてしまう今日この頃です。
狐人的読書メモ
とはいえ、こうした問題は表面化していなかっただけで、昔からあっただろうことを思う。昔はうまくいっていて、現代だからうまくいっていないわけではなかろう。昔は環境的に両者ともが我慢をしなければならなかったが、今は我慢をしなくてもいいような社会になってきているのか。それが一概に悪いとも言い切れないが。我慢すべきところと我慢しなくてもいいところ、甘えをなくしたり気を遣ったり、何をどこまでやればいいのか、昔も今もそのバランスが難しいのではなかろうか。
・『初孫/国木田独歩』の概要
1900年(明治33年)12月、『太平洋』にて初出。手紙から読み取れるほのぼのファミリーエピソード。しかし孫ブルーなどの家族が潜在的に抱えうる問題について考えさせられた小説だった。
以上、『初孫/国木田独歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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