狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『12人兄弟/グリム童話』です。
文字数4000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約14分。
13人目が女の子なら12人の兄弟は……
百匹目の猿現象、末子相続、近親婚、インセスト・タブー、復讐、理想のヒロイン、絶対ではない善悪……
いろいろ考えておもしろいグリム童話。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
昔、王とお后、12人の子供が幸せに暮らしていた。子供たちはみんな男の子だった。あるとき王が命じた。
「つぎに生まれてくる13人目の子供が女の子なら、その子の財産が大きくなり、国がその子だけのものになるよう、12人の男の子は亡き者とする」
以来、お后は一日中悲しむようになった。そこで母親といつも一緒にいる一番下の息子が尋ねた。お母様、何がそんなに悲しいの? お后はすべてを打ち明けた。一番下の息子は母を慰め、兄弟たちとともに城を出ていくと言った。
「それなら森へ行きなさい。もし私が男の子を産んだら白い旗を、女の子だったら赤い旗を立てます。白い旗なら戻ってきて、赤い旗なら急いで逃げるのですよ」
十一日後、あがったのは赤い旗だった。一番下の弟がその事実を告げると、兄たちは激怒した。復讐だ、娘を見たらどこでもその赤い血を流してやる。こうして12人の兄弟は森の奥深くへと去っていった。
十年後、お后の産んだ姫は、額に金の星があり、心優しく、美しく育っていた。ある日、姫は12枚の男の子のシャツを見つけて母親に尋ねる。お后は暗い気持ちですべてを姫に打ち明ける。姫は兄弟を探す決意を固める。
森の奥には魔法の小屋があった。姫が中に入ると一人の若者がいた。若者は姫の一番下の兄だった。二人は抱き合って喜ぶ。が、復讐を誓ったほかの兄たちに妹を会わせるわけにはいかない。しかし、妹は言う。12人の兄に会うためならば、喜んでこの命を差し出しましょう。
一番下の兄は一計を案じ、妹を隠した。帰ってきた上の兄たちに、秘密を教える代わりこれから最初に会う娘を許してほしいと乞う。上の兄たちが約束すると、妹を出して紹介した。みんなが喜び合った。
兄妹は仲良く暮らし始めた。しかしあるとき、妹は兄たちに贈り物をしようと、庭の12本のユリの花を摘んでしまった。瞬間、12人の兄は12羽のカラスになって飛んでいった。呆然と立ち尽くす姫の近くに、一人の老婆が立っていた。
老婆は12本のユリが12人の兄たちだったのだと言う。兄たちを救うためには、姫が七年間一言も話したり笑ったりしてはいけない。姫は兄たちを救う決心をすると、高い木に登り、一言も話さず、笑わなくなった。
一人の王が森で狩りをしていて、偶然姫を見つけた。あまりの美しさに一目惚れし、すぐさま求婚すると、姫は口では答えなかったが、少しだけ首を縦に振った。
結婚ののち、二人は二、三年の間幸せに暮らした。が、意地悪な王の母親が、王に若いお后の悪口を吹き込み、とうとう処刑せねばならなくなった。
はりつけにされた若いお后の服を、赤い炎の舌が舐めたとき、七年の最後の瞬間が訪れた。同時に12羽のカラスが処刑場に降り立ち、人の姿となる。妹は兄たちを救ったのだ。そして今度は兄たちが愛する妹を救った。
若いお后は王にすべてを語り、その無実が証明された。王は大喜び、その後みんなは仲良く暮らした。意地悪な継母は偽証の罪によって裁判にかけられ、煮えた油と毒蛇の樽に入れられた。
狐人的読書感想
ふむ。同じくグリム童話の『六羽の白鳥』に似ているなと思ったら、やはりそのときの読書感想ブログに類話であることをメモしていました。
童話の類話は世界中に存在していて、元になっているのは民間伝承であり、なぜ世界中に似たような話があるのか、非常に興味深いです。
ふと「百匹目の猿現象」というものを思い浮かべました。
これはある島にいる一匹の猿が、イモを洗って食べるようになり、するとそれをマネし出す猿が現れ始め、その数が一定数を超えるとそれが群れ全体に広がり、さらには別の離れた場所の猿にも突然この行動が見られるようになる、というものです。
なんというか、生き物が種として共有しているデータベースみたいなものがあって、無意識のうちに同じような思考や行動を各地で行っているのかなあ、などと想像してみると、童話の類話が世界中にあるという話もこの一例のように捉えることができておもしろいんですよね。
とはいえ、「百匹目の猿現象」は創作だったらしく、実際には存在しない現象なのだそうですが。
さて、グリム童話といえば意味不明なところが多いですよね(僕だけ?)。
『12人兄弟』にもやはり意味が掴みづらいところがあります。
なんといっても冒頭ですね。
なんでつぎに生まれてくる子供が女の子だったら、12人の兄弟を亡き者にしなくちゃいけないんだよ王様!
――と思ったのですが、王様の言うように、「末の娘」に財産を残すという理由が当時としては納得でき、現代(とくに長子相続が常識の日本)ではなかなか理解しにくいことのようです。
これは「末子相続」を表していて、長子が戦争に行かなければならなかった時代の風習だといいます。併せて、男は戦争に行かなければならなかったので、娘を相続人にするという風習にも合致しています。
日本でも、江戸時代から昭和初期にかけては、長子は江戸に奉公に出ねばならず、地方では末子相続の風習があったといいます。現在でも相撲部屋の継承にはこの末子相続が見られることがあると聞いておもしろく感じました。
(さらに興味深い話として、王様とお后様は兄妹だったのでは……、というものがあります。自分たちがそうだったから、インセスト・タブーを再び破らないように……、という理由付けはたしかに説得力が増すように感じられます。しかし自分たちのことは棚上げして……、という反感は覚えざるを得ませんでしたが)
母親から事の次第を打ち明けられたときの一番下の弟の反応も印象に残りました。
それじゃあ家を出ていくよ、って、なかなか子供が言い出せることじゃないような気がするんですよね。僕だったら泣きわめいてしまいそうな気がして、この逞しさは見習いたいような気持になりました。しかしながら、子供って逞しいなあ、と感じることもあるんですよねえ……、とか思うと不思議な感じもしましたが。
赤い旗があがって兄たちが激怒し、復讐のため、娘を見たらどこでもその赤い血を流してやる! ――という部分はちょっと共感できませんでした。よく物語などで見るオーソドックスな復讐感情だとは思うのですが、そんなのただの八つ当たりだろ感は否めません。
復讐はさらなる復讐を呼び、よくないことだとは思いますが、正当な復讐というものはたしかにあって、この場合兄弟は父王にこそ復讐すべきだと思うのですよね。とはいえ、できることなら復讐はしないでほしいのですが、しかし正当な復讐をやめさせる権利などは誰にもないという気がします。
妹姫のキャラクターは単純に好きだなあ、と思いました。兄たちに会うためには自分の命さえも投げ出し、さらにその兄たちを救うためにはどんな試練にだって耐えてみせる――という、一つの理想のヒロイン像が描かれているんですよね。
自分がひねくれものだからでしょうか、けなげでいじらしく愛おしいキャラクターにはどうしても惹かれてしまいます(みんなそうなの?)。
最後はグリム童話お決まりの勧善懲悪処刑パターンでしたが(理想のヒロインとして若いお后がかばってあげてほしかった、と思うのは僕だけ?)。
グリム童話ではいつも完全懲悪にならないことに不満を覚えるのですが(今回の場合、父王が何の罰も受けていない)、しかし現代から見れば悪だと捉えられる王様の所業も、当時の風習からすれば決して悪とも言い切れず、だから罰もないのかなあ、などと想像してみると、思わされるところがあります。
正義と悪は移りゆくもの、絶対の正義も絶対の悪もこの世には存在しないんだよなあ、みたいな。
だからどうこうという話ではないのですが、グリム童話はいろいろなことを考えさせられておもしろい、というだけのお話でした。
読書感想まとめ
百匹目の猿現象、末子相続、近親婚、インセスト・タブー、復讐、理想のヒロイン、絶対ではない善悪――などなど、いろいろ考えさせられて、やっぱりグリム童話はおもしろいです。
狐人的読書メモ
・アールネ・トンプソンのタイプ・インデックス。世界中の昔話が類型ごとに分類されている。
・『12人兄弟/グリム童話』の概要。
KHM9。類型が多い童話。『七羽のからす』、『十二羽のマガモ』、『ユーディアと七人の兄弟』、『野の白鳥』、『六羽の白鳥』、『鵞鳥白鳥』などなど。
以上、『12人兄弟/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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