狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『花咲ける石/坂口安吾』です。
文字数11000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約35分。
江戸後期。薗原騒動。
天下無敵法神流二代目・須田房吉の生涯。
歴史小説、剣豪小説はおもしろい。
修行は漫画やアニメに欠かせない要素。
歴史、剣豪、漫画好きにおすすめ。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
江戸時代、群馬県北側の山間部では剣術が盛んだった。どの村にも例外なく剣術道場があり、男たちはみなよく剣を使った。一説では、それは自衛のためであったというが、詳しいことはわかっていない。
赤城山と武尊山に挟まれた山中に追貝という里があり、あるときそこに一人の男が住み着いた。その男、剣を使えばあまりに強く、腕自慢の村民たちも歯が立たない。学識深く、オランダ医学に通じ、人格は神の如く高潔である。
名は楳本法神。人呼んで今牛若。天下無敵法神流の開祖である。
法神の高弟を三吉と称する。深山村の房吉、箱田村の与吉、南室村の寿吉である。これに樫山村の歌之助を加えて四天王という。この中で房吉がずば抜けて強かった。
房吉は幼少より絵や文学を好み、剣の鋭さには天分があり、人一倍努力家だった。師の法神は「剣聖の域に達した」と賞賛し、房吉に秘伝をすべて伝え跡目に立てた。一般には須田房吉の名で知られている。
ある御家人が房吉に目をつけた。近頃の江戸では、田舎侍に腕の立つごろつきが多く、幅を利かせていた。旗本の気勢はどうにも上がらない。そこで房吉を江戸に招き、道場をやらせて評判を立てさせ、道場破りのごろつきどもを一網打尽にする策を講じた。
策は当たった。房吉に敵うものは江戸にも誰もいなかった。江戸ならば手強い剣術使いに出会え、さらなる見識を深めることができると思ったのだが――房吉は二人の師範代に江戸の道場を任せ、里に帰り妻をめとる。
薗原村の庄屋に中沢伊之吉という剣術使いがあった。伊之吉は評判の高い房吉が気に食わず、対抗試合を挑むも一撃で倒され、これを逆恨みする。そして神道一心流の師である山崎孫七郎に泣きつく。面子を潰された山崎は三十余名の弟子を集め、鉄砲、弓、薙刀――どんな手を使っても房吉を亡き者にしようと画策する。
房吉はその企みを知っていたが、剣を愛する上州の地に邪剣邪心の横行を許してはならぬと決心した。一人山崎との果し合いに臨むが――多数の敵と銃弾の前に倒れる。
のち房吉の舅が江戸の奉行所に出訴して、山崎ら一味は法の裁きを受ける。この事件は江戸で大評判となり、房吉は伝説となった。人々は、その非業を悼むより、「あの強すぎる鬼神もやはり人間だったのだ」と驚きの方が大きかった。
現実には起こりそうもないことが起こる。
房吉の伝説、まさに花咲ける石。
狐人的読書感想
歴史小説、剣豪小説ですね。
楳本法神さんも、須田房吉さんも、そして房吉さんが伝説となった事件(薗原騒動)もすべて実在したものだそうです(つまりこれは史実をもとにして書かれた小説です)。
『壬生義士伝』とか『北方水滸』とか『バガボンド』とか。
僕も歴史もの剣豪もの武侠ものは結構好きなので、それだけで『花咲ける石』は楽しめました(あらすじでは省きましたが宮本武蔵さんの剣法についても少し触れられています)。天下無敵法神流、法神の三吉・四天王、剣聖などなど出てくるワードが熱いです。
修行といえばいまや少年漫画のみならずさまざまなジャンルで欠かせない要素ですが、『花咲ける石』の序盤でも、法神さんや房吉さんの強さの由来が語られて、漫画好きにはおもしろいかと思います。
彼には天分があったばかりでなく、人の何倍という稽古熱心の性分があった。免許皆伝をうけて後も怠ることなく、師の法神が諸国の山中にこもって剣技を自得した苦心にならい、霊山久呂保山にこもってまる三年、千日の苦行をつんだ。苦行をおえて戻った時に、彼の筋肉は師の法神のそれと同じくあらゆる部分が力に応じて随意に動くようになっていた。つまりどこにも不随意筋というものがない。下の話で恐縮だが、男の例の一物は随意に動くものではない。ところが彼はこれすらも随意に収縮することができた。これを小さくおさめて敵の攻撃を防ぐことができた。武技だけでは、こうはいかぬ。意馬心猿の境地ではおのずから裏切られてしまう性質のものであるから、つまり彼は剣聖の境に達したのである。
不随意筋というものがないって、しかも男の例の一物を随意に収縮させて小さくおさめて敵の攻撃を防げたって、つまりそれで剣聖の境に達したのであるって……。
琉球空手の技法の一つに骨掛け(コツカケ)というものがあります。腹筋を操作して睾丸を恥骨の奥部におさめる秘技で、金的攻撃を防げるのですが……、独歩さんから得た知識ですが(国木田のほうではない)、これを思い出してしまいました。
「彼は白刃の下、一寸の距離をはかって身をかわす沈着と動きがある。これはツバメが生まれながらに空中に身をかわす術を心得ているように天性のものだ。凡人が学んでできることではない」
上の引用は、師法神さんが弟子の房吉さんの剣を評している言葉ですが、「ツバメが……」という辺りからはやはり佐々木小次郎さんの燕返しを連想してしまいました。
冒頭『現今では只見川とか藤原とかそれぞれダムになって……』とあるように、薗原騒動の舞台となった薗原も現在ではダムとなっているようです(薗原ダム)。この薗原ダムによってつくられている人造湖の薗原湖はドライブや観光の名所になっているそうですが、心霊スポットとしても有名らしいです。
楳本法神さん、須田房吉さん、法神流と――歴史小説、剣豪小説のモチーフとしてやはりおもしろいように思うのですが、これを題材にした津本陽さんの『天狗剣法』という剣豪小説があるみたいですね。
あと坂口安吾さんの『女剣士』もまた法神流の末裔たちを描いた作品らしく興味を惹かれました(近々読んでみようかと思います)。
読書感想まとめ
歴史小説、剣豪小説はおもしろい――
狐人的読書メモ
――おもしろいのだけれど、読書感想の着想があまり得られなかった。なので短めの読書感想になってしまった。なんでだろ? 不調?(こんな日もある?)
・『花咲ける石/坂口安吾』の概要
1954年(昭和29年)『週刊朝日別冊』にて初出。法神流二代目須田房吉の生涯。薗原騒動。史実をもとに書かれた歴史・剣豪小説。
以上、『花咲ける石/坂口安吾』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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