狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『山の手小景/泉鏡花』です。
泉鏡花さんの『山の手小景』は文字数4000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約7分。
東京山の手小景。
矢来町(神楽坂)と茗荷谷。
そこにいる人がその場所の情景を象徴する。
矢来町(神楽坂)は大人の街。
茗荷谷は住みたい街ランキング3位!
お茶の水女子がなぜ茗荷谷に……。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
矢来町
ある夏の夜のこと。夫婦水入らずでの散歩。旦那はおめかし、奥さんは質素な佇まい。浮かれた様子の旦那に、そっけない奥さん。会話が全然弾まない。神楽坂に行く途中、旦那は「下駄を買ってやろうか」と水を向けるも、奥さんは黙ったまま返事をしない。随分長いこと歩いたけれど、奥さんにとって神楽坂を歩くことは、ちっとも楽しみなことではなかった。すでに、昼間ちゃんと着物を着て、お手伝いさんとお惣菜の買い物に出かけていたから。
茗荷谷
小石川茗荷谷から台町へ上がるちょっとした坂。俗に暗がり坂といわれるその坂の上のほうから、童がひとり、「苺だ、苺だ」と威勢のいい売り声を響かせながら降りてくる。いかにも嬉しそうな、小躍りするような足取り。童はやがて坂の下口、茗荷谷へ出ようとするあたりで、「おくんな」と声をかけられる。九つばかりの男の子だ。太っちょで古いカバンを斜めに提げた、この辺りの貧しい家の子である。童はざるを小脇に隠し持つも、男の子が吉公とわかると舌打ちして「驚かしやがった、嫌になるぜ」。苺は盗んだものだった。
狐人的読書感想
さて。掌編二品からなる泉鏡花さんの短編小説です。文語体だから読みにくい――というのはもう言わなくてもいいですかね?
タイトルにもあるとおり、東京山の手(下町じゃない高台地域)の小景(印象に残るちょっとした眺め)をスケッチしたような小説でした。
泉鏡花さんといえば、幻想的な情景描写が秀逸なイメージですが、『山の手小景』では風景描写よりも人物描写のほうに力が入っているような気がして、それがとても印象的でした。
ある地域や景色を表現するとき、そこにいる人物を象徴的に捉えた作品に、国木田独歩さんの(凄い)小説『忘れえぬ人々』がありますが、それを彷彿とさせます。
(▼国木田独歩さんの凄い小説『忘れえぬ人々』の読書感想はこちら)
⇒小説読書感想『忘れえぬ人々 国木田独歩』凄い小説なので四回読んでほしい!
すなわち、「矢来町」では一組の夫婦、「茗荷谷」では二人の子供が、その地域を象徴して描かれているのかなあ、と思ったのですが、どうでしょうね?
よくいえば、「矢来町」は粋な感じのする旦那さんと凛とすました奥さんの街。「茗荷谷」のほうは子供がのびのび育つ街。――といった感じでしょうか。
悪くいえば! 「矢来町」は豊かだけど夫婦仲が悪くなってしまうようなぎすぎすした街。「茗荷谷」のほうは貧しく、悪餓鬼の跋扈する治安の悪そうな街。――といった感じになりますが(一応、悪意ありません! 気分を害した方いらしたらごめんなさい)。
昔のことはいざ知らず、現代の街の様子が気になったのでちょっと調べてみました。
まず「矢来町」(神楽坂)ですが。
新宿区なんですねえ。テレビで紹介されるような飲食店が多く、人が多すぎるということもなく、かなり住みやすい街のようです。ただ高層マンションも多く、家賃は結構お高いそうで、その意味では大人の街といえるみたい。経済的に豊かな層の暮らす街、というあたり、作品から受けた印象と通じます。
つぎ「茗荷谷」。
文京区。作品を読んで心配した治安はすごくいいみたい。しかも高級住宅街で学生さんも多い――「子供がのびのび育つ街」とイメージが一致します。女子高が多いらしく、「お茶の水女子がなぜ茗荷谷に……」というのは字面だけでちょっとウケました。なんと『月曜から夜ふかし』(2016年5月16日放送)では住みたい街ランキング堂々の3位にランクイン!
調査結果はこんな感じでしたが。まあ、東京――しかも23区ということで、住み心地はともかくいろいろ便利なんだろうなあ……、くらいには思っていましたが。とくにアクセス。山の手といえば山手線もありますしね(発想が田舎者ですかねえ……)。
そんな田舎者な狐人の僕でも山手線の名前くらいは知っているので、ひょっとして日本一有名な日本の鉄道路線なのではないでしょうか? 少なくとも一日の乗客数は断トツの1位(ちなみに2位が埼京線、3位が東海道線だそうです)。
そんな山手線なので、通勤ラッシュ時はいつも込んでいるイメージですが、じつは混雑率ワーストランキングの30位にも入っていないそうです。テレビニュースなどのイメージ先行なんですかねえ(ちなみに混雑率ワースト1位は東京メトロ東西線「木場-門前仲町」区間だとか。混雑率200%とか想像しただけで溶けそう……)。
他に気になった雑学として。山手線の電車は一日19周回るそうで、一周は62分。内回りは女性の声で、外回りは男性の声で、それぞれアナウンスされるので、これを聞き分ければ次に来る電車がどちらなのか識別可能だとか。
ちょっと東京に詳しくなれた気がしますが、はたしてこの知識を使う日が来るのだろうか……(いわずもがな)。
最後にまた、はじめの人物描写の話題に、ちょっとだけ戻るのですが。
「矢来町」の夫婦については、夫婦仲が冷えているのか、それともこれが山の手の夫婦の自然な在り方として描かれているのか、判断に迷いました。旦那さんと奥さんで明らかに温度差があるのですが、別に仲が悪いというわけではないんですかねえ……。
これが「かかあ天下」というやつなのでしょうか? いなせな感じを出したい奥さんラブの旦那さんと、クールビューティー的な奥さんの夫婦で、そう捉えてみれば、自然な夫婦の在り方が、山の手小景の象徴として、描かれているんですかねえ……。
――なんかそんな気がしてきました。これまで読んできた泉鏡花さんの小説に描かれる夫婦は、どこか素敵だなあ、と感じられるものもあったので、作風からしてもきっとそうに違いない(と信じたい)。
(▼泉鏡花さんの素敵な理想の夫婦像はこちら)
⇒若菜のうち/泉鏡花=理想の夫婦像×怪しき可憐な幼女姉妹=美しき怪異譚?
読書感想まとめ
「矢来町」も「茗荷谷」も住みやすそうないい街でした。
狐人的読書メモ
狐人的に「矢来町」の奥さんを表すのに用いられたことわざ『能弁は銀の如く、沈默は金の如し』が気になります。現代的にいえば『沈黙は金、雄弁は銀』となりますか。黙っていること、それすなわち雄弁よりも大切なこと――これって実社会で有効なことって、少ないような気がするのですが。『言った者勝ち』というか、結局発言力の強い者が得をする場合のほうが、圧倒的に多いのではないでしょうかねえ……。
・『山の手小景/泉鏡花』の概要
初出不明。口語体。読みにくい。
人物が情景を象徴する描写。
以上、『山の手小景/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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