狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『虹の絵具皿(十力の金剛石)/宮沢賢治』です。
文字数11000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約20分。
王子と大臣の子が、虹の袂にあるというルビーの絵の具皿を探しに行く。しかし追っても追っても虹の絵の具皿は手に入らない。代わりに見つけた十力の金剛石とは…?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
むかし、ある霧深い朝、王子と大臣の子が遊びに出かけた。虹のあしもとにあるというルビーの絵の具皿、あるいは金剛石のあるという山の頂上を目指し、宝石を探しに行くのだ。
家来たちが追ってきたが、二人は野原の霧の中を走った。遠くの白樺のあたりに虹を見つけて、二人はその前まで走っていくがルビーの絵の具皿は落ちていなかった。
二人はさらに虹を追ってまっ黒な森へ入っていった。王子は藪を剣で切り払いながら奥へ進んでいった。霧でまわりがわからなくなったとき、誰かが歌う声が聞こえてきた。
歌声の主は二人の青い帽子の蜂雀の飾りだった。蜂雀が飛んでいくあとについていくと森に囲まれた草の丘の頂上に辿り着く。そこから見える光景はすばらしいものだった。
天河石のりんどうの花、その葉は硅孔雀石。猫睛石の黄色な草穂。ルビーののいばら。宝石の雨がふり、宝石でできた草花に当たり、カチンカチンと音が鳴っていた。
王子はハンカチを広げて宝石を拾い集めようとしたが、あまり一面きらきらしているので、なんだかばからしい気分になった。
やがて草花は「十力の金剛石が今日もふらない」といって悲しみの歌を歌う。王子は「十力の金剛石ってどんなものだ?」と問う。
十力の金剛石とは草花曰く、「金剛石のようにチカチカ光らず」「きらめくときもあればにごるときもある」「春の風よりやわらかく、あるときはまるい卵がたで、霧より小さな粒にもなる」「草木のからだの中で月色にふるい、人の子供のりんごの頬を輝かせる」
突然蜂雀が鋭く叫ぶ。すると十力の金剛石が降ってくる。それは宝石の草花を本物の生命満ちる草花に変えた。十力の金剛石とはその露ばかりではなく、青空、太陽、風、花、草、丘や野原、そして王子たち――すべてが十力の金剛石であった。二人はそのことを知った。
森の向こうから二人を呼ぶ家来たちの声が聞こえてきて、王子と大臣の子はそのほうへ丘をくだっていった。一本のさるとりいばらが王子の足をひっかけたが、王子は剣で切ろうとはせず、静かにかがんでそれをはずした。
狐人的読書感想
相変わらず情景の描写がすばらしいですね、宮沢賢治さんの童話は。本作は草花の色彩が色とりどりの宝石として描かれています。
宝石だらけの丘があれば何はともあれそれを拾い集めてしまいそうですが、そういう物質欲に目がくらんでしまった自分がちょっと恥ずかしくなるような結末でしたね。
十力の金剛石について具体的なことは描かれていないのですが、おそらくは自然にあるもの(自然そのもの)、生命――それらすべてを宝石よりも尊いものとして表しているのだと感じられました。
王子も最初は宝石に価値を見出し、藪を切り払って森を進んだりしていましたが、十力の金剛石現象を体験してからは足にからんださるとりいばらをしずかにかがんではずしたりして、何らかの心理的な変化があったように見受けられます。
この心理的変化を成長ととらえるならば、これは少年が旅をして成長する話だとすることができそうですが、どうなんでしょうね?
人間宝石を求めてしまいがちになりますが、自然や生命といったもののほうが大切なんだ……みたいなことを学んだ気になりました。
とはいえ自然や生命が大切だとはわかりつつも、やっぱり宝石に惹かれてしまう自分がいますね。
思えば人は多くの場合、自然や生命には物質的価値を付与せずに、宝石やお金など無生命にばかり物質的価値を付与しているあたり、なんとなく不思議な感じがします。
(やっぱり宝石が欲しい!)と思ってしまった、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
虹の袂には何がある?
狐人的読書メモ
・虹のあしもと(たもと)には宝物がある、という伝説やら言い伝えやらがあるよね。
・『虹の絵具皿(十力の金剛石)/宮沢賢治』の概要
生前未発表作。王子と大臣の子が、虹のあしもとにあるというルビーの絵の具皿を探しに行く。追っても追っても手に入れることのできない虹の絵の具皿と十力の金剛石の正体とは? 『十力の金剛石』のタイトルは『虹の絵具皿』と鉛筆で直されて見えるため、青空文庫では後者を本作のタイトルとしている。しかし改題に関する改作メモ等は見つかっていないため、ちくま文庫版の全集では『十力の金剛石』としているとのこと。
以上、『虹の絵具皿(十力の金剛石)/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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