狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『恋人ローランド/グリム童話』です。
文字3000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約8分。
母親は実娘がかわいく、義娘が憎い。醜い妹は美人の姉に嫉妬する。ヒロインなのに憎しみの心を止められない。女は愛の魔術で他人の恋人を誘惑する。なんかドロドロ……。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
魔女にふたりの娘がいた。ひとりは醜く意地悪な実の娘、もうひとりは美しく善良な継娘だった。魔女は実の娘を愛し、継娘を嫌った。あるとき、継娘がきれいなエプロンを持っているのを見て、実の娘は母親に「あれがほしい」と言った。魔女は「今夜姉さんの首を切ってあげる。おまえはベッドの奥側に寝て、あの子を前に押し出しておくんだよ」。継娘は全部聞いてしまった。
その夜、継娘は妹が寝入るのを待った。そして妹をベッドの手前に押し出して、自分は壁側の奥に横になった。魔女は斧で手前の娘の首を切り落とした。それは実の娘の首だったが、魔女は気づかなかった。
魔女が行ってしまうと、娘は恋人のローランドのところへ急いだ。一緒に逃げてくれるように頼むと、ローランドは魔女の魔法の杖を持っていったほうがいいと娘に助言した。娘は魔女の家に戻り、魔法の杖をとった。妹の首から流れる血を、ベッドの前、台所、階段の三か所に一滴ずつたらした。そして恋人と逃げていった。
次の朝、魔女が実の娘を呼ぶと、階段の血が返事をした。もう一度呼ぶと、今度は台所の血から返事が。さらに呼ぶと、ベッドの前の血から返事があり、そこで魔女は実の娘の生首を見て、激怒した。
魔女は千里眼で継娘と恋人が逃げていくのを見つけ、その後を追った。不思議な長靴をはいて、歩いて一時間の距離を一歩で移動した。娘とローランドはそれを見ると、魔法の杖で恋人を湖に、娘をカモに変えた。魔女はパンくずでカモをおびき寄せようとしたが、カモは誘いに乗らなかった。魔女は一度諦めて家に帰っていった。
それから娘とローランドは一晩中歩き、娘はイバラの中の花に、恋人はバイオリン弾きに変身した。再び魔女が追ってきた。魔女がイバラの中の花を摘もうとしたとき、バイオリン弾きが演奏を始めた。すると魔女の身体は否応なく踊らされた。イバラの中で激しく踊らされた魔女は、トゲで傷つき血を流し、ついに倒れて動かなくなった。
こうして娘と恋人は魔女から解放された。ローランドは結婚式の準備をしに父の家に戻り、娘は野原の赤い石に変身して恋人の帰りを待った。ところが恋人は娘の元に帰らなかった。別の女がローランドを誘惑し、強い魅惑の力で彼は娘のことを忘れてしまったのだ。娘は悲しみに暮れて花に変わり、誰かが踏みつけてくれるのを待つことにした。
羊飼いがその花を見つけ、きれいだったので摘み取って家に持って帰った。すると羊飼いが寝たり仕事をしているうちに、家事がすべてこなされるようになる。羊飼いの家には彼一人しかいなかったのでこれを奇妙に思い、賢い女に相談した。「その陰には魔法があるわね。あなたは朝早く起きて、部屋の中で動いている何かを見たら白い布をかぶせなさい」。こうして花になった娘のしわざだと判明する。羊飼いは娘に求婚するが、娘は恋人のことが忘れられない。求婚を断り、羊飼いの家で家事をし続けると約束する。
ローランドの結婚式の日、古い風習のため国中の娘は式に出席し、歌を歌わなければならなかった。その知らせを聞き恋人の現在を知った娘は、胸が張り裂けんばかりに悲しんだ。
結婚式当日、自分の番になった娘が歌うと、ローランドは娘のことを思い出した。「この声を知っている。彼女が僕の本当の花嫁だ!」。こうして娘と恋人ローランドの結婚式が挙げらた。悲しみは終わり喜びが始まった。
狐人的読書感想
魔女は実の娘のことばかりを溺愛し、継娘のことは憎んでいます(何があって継娘を育てることになったのか気になりますね)。継娘の首を切り落とそうとして、実の娘の首を切り落としてしまいます(つっこむのは野暮ですが、普通気づくだろ!? って感じです。まあ、老齢で目が悪かったのかもしれませんが……)。
魔女の実の娘も継娘である義姉を快く思っていなかったんでしょうね。自分は醜く、義姉は美しい――嫉妬してしまう気持ちはわかりますが、だからって命を奪っていい理由にはならず、魔女の暴挙を止めるくらいのことはしなければならなかったでしょう(まあ、その罰が首を切り落とされるのでは、いささか重すぎる気がしてしまいますが……)。
主人公の娘も、平気で義妹を犠牲にしたり――普段からいじめられたりして継母と義妹のことを憎んでいたのかもしれませんが、物語のヒロインとしては善良と書かれているわりに善良ではないような気がしてしまいます。
恋人ローランドを誘惑する別の女は、ローランドに恋人がいることを知っていたかどうかによってちょっと事情が変わってきますが、知っていて誘惑したなら悪女だと言えますよね。
魔女は文句なく悪く、魔女の実の娘もまあ悪く、主人公の娘も悪くないとは決して言えず、ローランドを誘惑する別の女も悪い――なんか出てくる女性がみんな悪女なイメージを持つのですが(賢い女を除く)、これはキリスト教的な女性観が表れているんだそうです。
旧約聖書の創世記で、神様は自分の姿に似せてアダム(男性)を造り、アダムの肋骨からイヴ(女性)を造ったとされます。また、蛇にだまされ知恵の樹の実を食べて、アダムにも食べさせたのがイヴとなっています。
そういったところから、男は善で女は悪、女よりも男のほうが優れている――「男=善 > 女=悪」という価値観が生まれたのだとか。
言われてみれば、たしかにそんな偏った価値観が反映されている物語のように読めるんですよね、これは。
男女平等が叫ばれる現在、「男女の善悪二元論」的な考え方はよくないことだと思うのですが、でもそのことを切り離して読んだとしても、なかなかリアルな人間心理が描かれているグリム童話に感じられるんですよね。
親はやっぱり実の子が一番かわいいだろうし、兄弟姉妹でも(だからこそ)やっぱり嫉妬するだろうし、好きな人は恋人がいても自分のものにしたいと思うし、憎しみが人の命を奪ってしまうことだって――現実だという気がします。
……なんかドロドロのドラマを見ているような、それでけっこう楽しめてしまったような、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
ドロドロのドラマみたいな。
狐人的読書メモ
・言うまでもなく、人間は男女ともに善性と悪性を持ち合わせているものである。
・逃亡時、恋人ローランドが魔女の魔法の杖を持ってくるよう助言したシーンは、「男性>女性」を意図的に強調しているものと考えられる。
・なんだかんだで羊飼いが一番かわいそうだった気がする。
・『恋人ローランド/グリム童話』の概要
KHM56。原題『Der liebste Roland』。ドロドロのドラマみたいなグリム童話だった。
以上、『恋人ローランド/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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