フィッチャーの鳥/グリム童話=男と女は狐と狸の化かし合い?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

フィッチャーの鳥-グリム童話-イメージ

今回は『フィッチャーの鳥/グリム童話』です。

文字3000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約9分。

男は金で女をだまし、女は美で男をだます。勝つのはどっちだ。処女性を暗示する精神分析的見解が興味深い。蜂蜜は一生腐らない話もおもしろい。マクドナルドのハンバーガーは?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

ひとさらいの魔法使いがいた。乞食に変装してきれいな娘のいる家へ行き、パンを持って出てきた娘をカゴに入れて誘拐していた。

魔法使いは娘を豪華な自宅へ運び込み、娘の好きなものをなんでも与える。そして数日後にある試練を課す。

自分は旅に出ると言い、家の鍵と卵を娘に渡す。それから、小さな鍵の部屋には入らないように、卵を大事に持ち歩くように伝えて、家を出て行く。

娘が好奇心に負けてその部屋に入る。すると部屋の中央には血だらけのたらいがあり、中には何人もの娘の身体がばらばらにされて入れられている。それを見て驚いた娘は、卵をたらいの中に落としてしまう。すぐに拾い上げて洗ってみても、卵についた血は落とすことができない。旅から帰った魔法使いは、血のついた卵を見て娘が約束を破ったと知る。その娘をばらばらにして、たらいの中に放り込む。

ある三姉妹のいる家で、上の娘から順番に行方不明となる。一番目と二番目の娘は試練に失敗したが、三番目の娘は合格する。三番目の娘は小さな鍵の部屋に入るも、卵は持ち歩かずに別の場所に保管したため、卵に血がつくことはなかったのだ。三番目の娘はたらいの中から姉たちの頭、胴、腕、足を拾い上げ、それをくっつけて生き返らせた。

帰ってきた魔法使いは、三番目の娘の卵に血がついていないのを見て、結婚を申し込む。三番目の娘はそれを承諾して、ひとつの条件をつける。その条件とは、カゴいっぱいの金を持って、両親に届けてほしいという願いだった。

三番目の娘は、二人の姉を魔法使いのカゴに入れ、途中で休んだり立ち止まったりしないよう言いつけてから、魔法使いを送り出す。魔法使いはカゴが重いので途中で休もうとしたが、そのたびカゴの中の姉たちが「あなたが休んでいるのが見えますよ」と注意したので、魔法使いはこれを花嫁の声とカン違いし、休まず三姉妹の家へ金を運ぶ。こうして二人の姉は無事家に帰る。

その間、三番目の娘は結婚式の支度をし、魔法使いの友達に招待状を送る。生首のひとつに化粧して、あたかも花婿の帰りを待つかのように、二階の屋根裏部屋の窓に配置する。蜂蜜の樽に入り、羽毛布団を切り裂いて転げまわる。そうした娘はまるで不思議な鳥のように見える。

三番目の娘は魔法使いの家を出て、自分の家への帰路につく。途中、魔法使いの友達や魔法使い本人に出会う。

「やあ、フィッチャーの鳥さん、どこからきたんですか?」
「すぐ近くのフィッチャーさんの家からよ」

魔法使いは二階の窓に花嫁の姿を見つけて、やさしく挨拶して家に入る。招待客も続々やってきて魔法使いの家に入っていく。全員が家に入ったところで、人々が家に火をつける。

こうして魔法使いとその仲間は焼かれてしまうのだった。

狐人的読書感想

ある意味グリム童話らしいグリム童話でしたね。

(残酷なグリム童話らしい、という意味で)

典型的な「末子成功譚」といえそうですが、これは当時の「末子相続の風習」を表しているんでしたね、たしか。

魔法使いの男の魔法と、三番目の娘の賢さ、用心深さが対等に成り立っていて、互角に渡り合っているのが印象に残ります。

なんとなく「男女関係は狐と狸の化かし合い」といったことを思わされるんですよね。

(いい意味でも悪い意味でも)

結果的に「悪い男にだまされるな!」とか「知恵や用心深さが大事!」といった教訓が読み取れるような気がしますが、「男女平等である」というところがどこか現代的な教えのようにも感じてしまいます。

(最後には娘が勝っているところも意味深ですねぇ……)

他に興味深いと思ったのは、「卵についた血は娘の処女性」を暗示しているという、精神分析的な見解でしょうか。

日本で処女性が重要視され出したのは明治維新以降だと聞いたことがあります。つまり、キリスト教の影響だったかと思うのですが、マリア様の処女懐胎の話とか、処女信仰とかどうやって生まれたんだろうなぁ……という疑問は持ちます。

昔は世界的にそういうことについておおらかだったといいますし、しかし人には独占欲というものもありますし……おおらかだったからこそ希少性が貴ばれたみたいなことなんですかねぇ……というあたりが興味深いです。

それから、蜂蜜。

三番目の娘が「フィッチャーの鳥」に化けるのに蜂蜜を接着剤代わりに使っていましたが、昔蜂蜜は遺体の防腐剤として使われていたんだとか。

ギリシア伝承では「蜂蜜の壷に落ちる」と言うと、亡くなること、またそこからの復活を意味するのだとか。

蜂蜜は糖度が高く(全体の80%が糖分で20%が水分)、浸透圧の働きにより細菌の水分を吸収してその繁殖を防ぐため、一生腐らないのだとか。

(凄いですね、蜂蜜。はじめて知りました)

そんな感じで、いろんなおもしろい暗示が読み取れたように思った、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

男と女は狐と狸の化かし合い?

狐人的読書メモ

・「マクドナルドのハンバーガーは腐らない」とネットで話題になったことがあると知って驚いたが、普通に腐るらしい。

・ラストはやはり魔女狩りの暗示だろうか。

・『フィッチャーの鳥/グリム童話』の概要

KHM46。原題は『Fitchers Vogel』。『まっしろ白鳥』『水かき水鳥』という邦題もあり、「フィッチャーの鳥」は「白鳥」のことをいっているのかもしれない。日本神話のヤマトタケルが白い鳥になったように、鳥は霊と同一視されることが多いらしい。類話に『青ひげ』『強盗のおむこさん』など多数。

以上、『フィッチャーの鳥/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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