狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『お伽草紙 ―カチカチ山―/太宰治』です。
文字18000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約50分。
男性諸氏への警告か。中年が少女に恋をするのは勝手。だが、中年に恋をする少女はお伽草紙。他人に迷惑をかけないように、現実と幻想を区別しないと……やけどするよ?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
カチカチ山といえば、いたずらをして、お爺さんに捕まった狸が、狸汁にされそうになったところを、お婆さんをだまして、逆に婆汁にしてしまい、お爺さんに復讐を相談された兎が、残酷な手段をもって仇討ちをはたすという内容だが、児童の読み物としては荒っぽい。
とくに婆汁なんてものは残酷すぎるので、狸がお婆さんにひっかき傷を負わせて逃げた、くらいが適当なように思われるが、しかしそうなってくると、狸の背中にやけどを負わせ、追い打ちにカラシをぬり、さらに泥船に乗せて溺れさせてしまう――という兎の復讐がひどすぎる。
この矛盾を解消する一つの設定がある。カチカチ山を、残酷な少女(兎)に恋をしたバカな中年男(狸)の物語として読むのである。
兎は十六歳の処女で、いまだ純真な子供の残酷さを宿しており、しつこくつきまとってくる三十七歳の(十七歳とバレバレの嘘で年齢を詐称している)狸を、「汚い、臭い」といつも疎ましく思っていた。
ある日、狸が「婆さんをひっかいて逃げてやったぜ」と武勇伝のように語るので、兎は「わたしの友達になんてひどいことをするの」となじる。しどろもどろに言い訳するしかない狸に、兎はお詫びの柴刈りを提案する。
こうして兎は、狸の背中に柴を背負わせ、その柴に火をつけて、首尾よくやけどを負わせることに成功し、さらに薬屋に化けて背中のやけどにカラシをぬるという追い打ちをかけるが、頑丈な狸は十日ほどで快復し、しかもやけどが兎のしわざであるとは気づいておらず、また執拗につきまとってくる。
うんざりな兎は、狸を湖のデートに誘い出し、巧みな誘導で泥船に乗せ、泳げない狸を湖水深くに沈めた。
この物語から学ぶべき教訓は「バカな男ほど危険な女に惚れやすい」「女性にはすべて無慈悲な兎が住んでいて、男性には善良な(バカな)狸がいつも溺れかかっている」などということである。
狐人的読書感想
やっぱり独自解釈がおもしろいですね。よくこういうこと思いつくよなぁ、って感心してしまいます。
今回の『カチカチ山』は、兎と狸のキャラ設定が、本来の物語に説得力を加えています。
兎は「十六歳の処女」、狸は「三十七歳のおっさん」で、少女がおっさんに示す生理的な嫌悪感というものは、苛烈で残酷なものがあって、それだけで物語の兎の、狸に対する仕打ちには十分な意味づけができると感じてしまいます。
(倫理的には、やりすぎですが……気持ちはわかります)
少女に恋してしまう中年男というのも、なんだか現代日本のリアルを描いているように、感じられてしまいます。
完全にそうだ、とまでは言い切れないのですが、基本的に少女が純粋に中年男に好意を示す、なんてことはないように思われます。
あるとすれば、中年を感じさせないほどの若々しさが男性にあったり、俳優のようなカッコイイ見た目があったり、高い社会的地位や経済力といったところに魅力を感じているのであって、やっぱり同世代やちょっと上くらいの若い男のほうが好き、というのが普通のように思うのです。
しかし、それをわかっていないかのような、男性のアイドルに対するストーカー事件とか、少女誘拐事件とか、けっこうニュースで見るんですよね。
一部は、必ずと言ってよいほど若くてかわいい少女が登場するアニメやゲーム、アイドルグループの影響だと言われたりもしますが、歴史的に見ても日本人には、昔から少女好きの傾向があったそうです。
もちろん誰しも、本能的に若い異性が好き、というのは、僕にもわかるのですが。
ともあれ。
他人を不用意に傷つけたりしないためにも、「女性にはすべて無慈悲な兎が住んでいて、男性には善良な(バカな)狸がいつも溺れかかっている」といったような教訓は、男女とも、どちらの立場においても意識しておいていいように感じた、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
少女に恋した中年男の末路。
狐人的読書メモ
・いかなる場合も恋をするのは勝手だが、相手に迷惑になることをしてはいけない。
・日本人男性の少女好きについては、べつに日本だけが特別ではないのかもしれない。
・アニメやアイドルを引き合いに出してしまったが、アニメやアイドルと現実を区別して考えている人のほうが大半ではある。
・『お伽草紙 ―カチカチ山―/太宰治』の概要
1945年(昭和20年)『おとぎ草紙』(筑摩書房)にて初出。少女(兎)に恋した中年男(狸)の末路。これがおそらく現実だろう。現実をわきまえて男は少女に恋をしよう、という話かもしれない。
以上、『お伽草紙 ―カチカチ山―/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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