風博士/坂口安吾=ファルス、ナンセンス文学、あるいはミステリーか?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

風博士-坂口安吾-イメージ

今回は『風博士/坂口安吾』です。

文字数5500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約20分。

坂口安吾ファルス的ナンセンス文学。
ただのファルスとして読んでもおもしろいですが、
別の読み方をしても楽しめます。
語り部が読者を欺く手法を
「信頼できない語り手」
とかいいますよね……

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

語り部の「僕」によれば、偉大なる風博士は遺書を残して、自らこの世を去った。しかし、警察ではその内容の荒唐無稽なことに疑いを持っている。

すなわち「僕」と風博士がたこ博士の名誉を傷つけるため、共謀して遺書を捏造、すべては狂言であり、風博士もどこかで生きているのではないかと、「僕」に嫌疑をかけているという。

風博士の遺書の内容は以下のとおりだ。

まずは冒頭で、蛸博士のハゲであることを誹謗中傷している。二人は四十八年前には友人関係であったが、蛸博士はそのときからハゲでデブだった(ちなみに、風博士は黒髪明眸めいぼうの美少年だった)。カツラでそれを隠していた。

なぜ、風博士がそれほどまで蛸博士を憎むのかといえば、論敵だからだという。風博士は「義経=チンギス・ハン説」を唱え、スペイン・バスク地方の開祖はチンギス・ハンとなった源義経だった、という学説をぶち上げたが、蛸博士の異論によって論破された。

さらに近頃、風博士の家の玄関口に、バナナの皮が落とされており、これは蛸博士のしわざに違いないという(風博士はお尻と肩甲骨に打撲傷を負ったが、脳震盪には至らなかった)。また、蛸博士は、風博士の麗しき高山植物のごとき妻を奪ったらしい。

そこでついに風博士は復讐に出た。蛸博士の邸宅に忍び込み、彼のカツラを奪ったのだ。翌日の朝、蛸博士のハゲが白日の下にさらされるのをほくそ笑んで待ち受けていた風博士の前に、しかし蛸博士は悠然とカツラをつけて現れた。カツラにはスペアがあったのだ。

風博士はこれに絶望して自ら命を絶つことを決意したらしい。

語り部の「僕」によれば、風博士は遺体を残さず、じつに不可解な方法でこの世を去った。

事件の起こった日は、風博士の結婚式の日で、花嫁は十七歳の大変美しい少女だった。が、その日、風博士は結婚式を執り行うはずの、「僕」の書斎に現れなかった。

「僕」が風博士の書斎に駆けつけると、風博士は長椅子に埋もれて読書をしていた。「僕」が結婚式の時間が過ぎたことを伝えると、風博士は奇声を上げて書斎を飛び出し、そのまま消え失せてしまった。

玄関の扉の開いた形跡がないことから、風博士が邸宅の外に出たとは考えられない。しかし邸宅の内部のどこにも、風博士の姿は見えない。

風博士は風になってしまったのだ。

そしてこの日、蛸博士もインフルエンザになった。風邪(インフルエンザウイルス)になった風博士が、蛸博士を風邪(インフルエンザ)にしたのだ。

風博士の復讐はここになった。

狐人的読書感想

ファルス的ナンセンス文学なのだそうです(そういえば、ナンセンス文学ってボカロの曲が流行っているそうですね)。

筋はあっても意味はなく、しかし意味はあるのかもしれない――と考えたくなってしまう小説でした。

すなおに読み解けば、風博士がただおかしい人、というふうに思えますよね。

蛸博士にイヤなことをされたのかもしれませんが、遺書に書かれていることはなんだかこじつけみたいで、説得力がなく、ただの言いがかりのような印象を受けます。

ご近所トラブルであったり、身内の確執であったり、最近は言いがかりのような理由でとんでもない事件を起こしてしまう人のニュースなどをよく見かけるので、そんなことを連想してしまいました。

そもそも、蛸博士をハゲでカツラだって……風博士のほうが誹謗中傷甚だしいですよね。今年(2017年)の流行語大賞は「インスタ映え」と「忖度」でしたが、狐人的には「このハゲー!」が裏の流行語大賞として印象に残っていたので、そんなことを連想してしまいました。

ハゲを笑ったり、恥ずかしいと思ったりする風潮(?)って、どうにかならないのかなあ、などと思ったりしますね。ほかにもデブだったりチビだったりブスだったりとか。

最近この話をよく出しますが、2000万年後の人類の進化した姿は、星のカービィみたいな球体になるそうです。なんでも宇宙進出した際、無重力状態で体のバランスを取るには、球体が一番都合がいいんだとか。

しかし、球体になっても髪の毛だけは残るといっていました。人間は見た目を気にする生き物だから、だそうです。

2000万年経っても、ハゲとかチビとかデブとか、なくならないんだろうなあ、とか、ふと思ったというお話でした。

さて、作中、おかしな人物はもう一人いるんですよね。それは蛸博士……ではなくて、語り部である「僕」です。

遺書以外は「僕」の一人称で物語が進行していくのですが、警察が疑っているように、遺書を捏造できると考えるならば、この作品はすべて「僕」の主観でしかないんですよね。

全部が狂人のたわごとなのか、それとも一部に真実が含まれていて、何かを隠すために荒唐無稽な物語をでっちあげているのか……たとえば、「義経=チンギス・ハン説」を唱えたのは「僕」で、蛸博士に論破されたために仕返しをしたのもやはり「僕」で、不法侵入や窃盗の罪の言いわけのために、『風博士』をでっちあげたのかもしれません。

いずれにしても「僕」は「信頼できない語り手」という気がして、そう捉えてみると、なんだかゾッとさせられるような、ミステリーみたいな雰囲気も感じられるように思うのですが、どうでしょうね?

とはいえやっぱり、これはただのファルス(笑劇)と読むのが一番おもしろいかもしれません。大笑いできるわけではありませんが、クスリとできる場面がところどころにあったりします。

思えば、文章で泣かせることよりも、文章で笑わせることのほうが、はるかに難しいように感じられることがあります。

大爆笑できる文章作品というものには、たしかに出会ったことがないような気がして――あるいはそれができれば認められるのかなあ、などと漠然と考えてしまいますが、それができればもはや何の苦労もないんでしょうね。

いろいろと考えさせられるおもしろい小説でした。

読書感想まとめ

ファルスなのか、ホラーなのか、ミステリーなのか……考えるな、感じろ! です。

狐人的読書メモ

「義経=チンギス・ハン説」は興味深いと思った。バスク語と日本語の文法が似ているという指摘にはどこか説得力が感じられる。源義経には不明なことや異説が多く、創作の題材としてもおもしろそうに思った。

・『風博士/坂口安吾』の概要

1931年(昭和6年)、『青い馬』にて初出。坂口安吾のファルス的ナンセンス文学。牧野信一ら多くの評論家に評価され、安吾が世に出るきっかけとなった作品とされる。ファルスとして読んでもおもしろく、また別の視点から読んでみても興味深く、たしかに才能が感じられる秀作だと思った。とはいえ、おすすめする際には人を選ぶだろう。好きな人はすごく好きそう。

以上、『風博士/坂口安吾』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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