狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『楢ノ木大学士の野宿/宮沢賢治』です。
文字数20000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約55分。
宮沢賢治の地学童話。
楢ノ木大学士の野宿で見た夢の話。
平等、無常、悠久の時。
専門資料に溢れる仕事部屋。
小説家・漫画家になるには
小説・漫画ばかり読んでればいいの?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
宝石学の専門家、楢ノ木大学士のもとに、「貝の火兄弟商会」の赤鼻の支配人から、とある依頼が舞い込んできた。なんでも上等の蛋白石(オパール)探してほしいというのだ。大学士はその依頼を受けて宝石探しの旅に出かけた。
野宿第一夜は河原で寝ることになった。楢ノ木大学士がごろりと横になると、向こうに四人兄弟の岩頸(マグマが硬化してできた岩山)が見える――と、岩頸兄弟の会話が聞こえてきて、大学士はひどく驚いた。
「噴火して地球の半分を吹き飛ばせ」と、イライラ怒鳴る第一子。「自分だけ一人だけ高くなるようなことはしたくない、水や空気はいつでも地面を平らにし、自分たちはいつでも低いほうへ流れていく、そのやり方が本当だと思う」となだめるのは第二子。第三子はヒームカ(岩手県、日向居木山―?―)に恋い焦がれ、第二子は眠っている――楢ノ木大学士がはっと目を覚ますと、星空の下、まっ黒な四つの岩頸がじっと並んで立っているだけだった。
野宿第二夜は石切り場に小さな小屋を見つけた。手を頭の上で組んで、楢ノ木大学士がうとうとしていると、突然頭の下あたりで、言い合っているのが聞こえてくる。
それは鉱物たちの声だった。ホンブレン(角閃石)とバイオタ(黒雲母)が言い争いをしていた。そこにオーソクレ(正長石)が仲裁にきた。するとバイオタが急にお腹が痛いと言い出した。医者のプラジョ(斜長石)が呼ばれると、バイオタは風化による病気の一つにかかっていると診断された。しかし病気にかかっているのはバイオタだけではなかった。みんなが「いた、いた、いた。た」と叫ぶことになった。しんと静かになった。
野宿第三夜は海岸の崖にぽっかり開いた洞だった。楢ノ木大学士はすぐに眠って、夢も見ずに夜が明けたかと思うと、自分が何をしにここに来たのかわからなくなっていた。
そうだ、恐竜の化石を探しに来たのだ。と、頁岩に残された恐竜の足跡を追っていくと――そこには本物の生きた雷竜(首長竜、アパトサウルス)がいた。楢ノ木大学士は慌ててもと来た海岸に引き返したが、そこにも雷竜がうじゃうじゃといた。岬に逃れた大学士は、恐ろしさのあまり目を閉じた。顔に温かい鼻息を感じて、いよいよ雷竜に食べられてしまうと思った瞬間、目を覚ました。まだ夜の十二時にもならないらしかった。
結局、楢ノ木大学士は何の成果も得られずに帰った。「貝の火兄弟商会」の赤鼻の支配人が困りますと喚いた。大学士は支配人に旅費の状袋を投げつけて帰れと怒った。支配人は状袋を拾って帰るしかなかった。大学士は葉巻を咥え、天井を斜めに見ながらにやっと笑った。
狐人的読書感想
宮沢賢治さんには「地学童話」とも呼ばれる作品群(シリーズ)があって、『楢ノ木大学士の野宿』もそのシリーズの一つだといえるでしょう。
この作品は、子供の理科(地球科学)の教材としても利用しようとする試みがあるそうで、出てくる言葉には宮沢賢治さん独特の造語もあるのですが、読んでいるとなるほど、たしかな知識をもとに書かれていることが素人目にも伝わってきます。
宮沢賢治さんは盛岡の大学で地質学を学んでいたそうで、人生で得た学問の知識をこういう形で残せるのはすごいですね。
地学童話、地学小説、地学文学、あまり聞かないジャンルのように思います。現代、様々なジャンルがある小説の分野では、けっこう穴場のジャンルかもしれませんねえ……(小説のみならず、地学マンガとか?)。
思えば小説家・作家って、作中にけっこう豆知識や雑学を取り入れることも多いですよね。数学とか古文とか――学校の勉強って、大人になったら実生活ではあまり役に立たないといった印象がありますが、創作の上ではこれほど役に立つものもないという気がしてきます。
たまにテレビで見る小説家さん、漫画家さんのお宅訪問だとか、仕事部屋が専門の資料で溢れている光景をよく見ますよね。
小説家になるから小説ばかり読んでいればいいと思っている学生のあなた、漫画家になるからマンガばかり読んでいればいいと思っている学生のあなた、いまのうちに教科書を読んでおいたほうがいいかもしれませんよ(自戒)。
さて、そろそろ内容についてなのですが、正直に言ってしまうと、ちょっと掴み切れていないな、と感じています。
散文詩的な文章は読みやすく、独特の単語もおもしろかったのですが、全体として何が言いたかったのか、理解し切れていないように思います。
とはいえ、何も感想がないというわけではないので、以下にところどころ思ったことを綴っておきます。
まず、楢ノ木大学士の人柄に僕は反感を持ってしまいました。
一言で「学者気質」と言ってよいのでしょうか? 「貝の火兄弟商会」の赤鼻の支配人が依頼にきたとき、「自分に探せぬ宝石はない」などと散々自慢し見栄を切ったのに、結局は目的の宝石を見つけることができず、しかしまた見栄のために「美しい宝石は儚いものだから、今日は立派な宝石でも、明日はただの石ころだ」などとむちゃくちゃな理屈で支配人を追い返した姿はいただけないな、と思いました。
反面教師として学べ、ということなんでしょうかねえ……、僕としてはあまり魅力を感じられない人物でしたが。
ただ、人間悪いところもあればいいところもある、ということでしょうか、楢ノ木大学士の感受性の強さはすばらしいな、と感じました。
それが表れているのが三夜に及んだ野宿で見た夢ですよね。それぞれに宮沢賢治さんの思想が反映されている部分があります。
野宿第一夜のラクシャンの四人兄弟の話では、第一子がマグマから生まれた岩頸らしく、盛んに「地球を半分ふきとばしちまえ」と息巻いているのですが、それを第三子がなだめるセリフが印象的でした。
『兄さん、私はどうも、そんなことはきらいです。私はそんな、まわりを熱い灰でうずめて、自分だけ一人高くなるようなそんなことはしたくありません。水や空気がいつでも地面を平らにしようとしているでしょう。そして自分でもいつでも低い方低い方と流れて行くでしょう、私はあなたのやり方よりは、却ってあの方がほんとうだと思います。』
簡単にいえば「平等」と「謙虚な姿勢」ということを言っているのだと思うのですが、宮沢賢治さんの他作にも見られるテーマですよね、これは。僕は常に謙虚でありたいと願います(が、実現がなかなかむずかしいです)。
世界は平等なんかじゃない、人間社会は決して平等なんかじゃない――と、思わされることばかりあって、「平等」という言葉には理想論といった考え方しか普段なかなか持てませんが、宮沢賢治さんの童話を読むと、理想を追い求めることの美しさみたいなものに感動を覚えることがあるんですよね。
現実に平等は不可能でも、理想を求め続ける気持ちは大切なような気がして、だけど理想が現実ではなんの役にも立たないことも理解できて、思考がぐるぐるしてしまう問題ですよねえ、これも。
ぐるぐるしてないでつぎにいきます。
野宿第二夜の夢は鉱物たちの話でしたが、ここで一番印象に残ったのはホンブレンさんの以下の言葉でした。
『そうです、それは全くその通りです。けれども苦しい間は人をたのんで楽になると人をそねむのはぜんたいいい事なんでしょうか。』
『そうでしょうか。とにかくうそをつくこととひとの恩を仇でかえすのとはどっちも悪いことですね。』
おっしゃるとおりなのですが、ケンカをしていながら言っている言葉なので、どこか説得力に欠けるところは否めませんでしたが、言ってることはやはりおっしゃるとおりなので印象に残りました。
その後、鉱物たちはみんな風化の病で静かになってしまい、ここは世の無常を感じさせるところで、これも宮沢賢治さんの思想が反映されているように思います。
争いとか、欲望を満たす行いだとか――いずれ命の終わることを思えばただむなしく感じることってありますよね。しみじみ。
しみじみしてないで最後です。
野宿第三夜は恐竜が登場して、恐竜好きにはテンションの上がる章でしたが、ここには一つおもしろい話があります。
宮沢賢治さんの時代には、日本ではまだ恐竜の化石が発見されていなかったそうです。しかし宮沢賢治さんは、この作品を読んでわかるように、岩手県の海岸の白亜紀の地層に恐竜の化石があるのではないかと考えていました。そして1978年、実際にそこから日本ではじめての恐竜の化石が発見されました。
これを「宮沢賢治さんの予言が見事的中した」という見方があって、狐人的にはとてもおもしろいと思ったのですがいかがでしょう?
宇宙全体の歴史を1年に例えると、人間が誕生してからまだ4時間ほどだといわれています。物語全体をとおしていえるのは、悠久の時を感じられる童話だということ。人間って、ちっぽけな存在なんだなあ、みたいな。
理科好き、恐竜好き、のみならず、おすすめ。
読書感想まとめ
地学童話。理科の教材として、人間ってちっぽけな存在だよなあ、みたいな、悠久の時を感じたい方、理科好き、恐竜好き、などなどにおすすめ。
狐人的読書メモ
蛋白石(オパール)、ホンブレンさん(角閃石)、バイオタさん(黒雲母)、ジッコさん(磁鉄鉱 )、オーソクレさん(正長石)、プラジョさん(斜長石)、クォーツさん(石英)、などなど、『宮澤賢治語彙辞典』がほしくなった。
・『楢ノ木大学士の野宿/宮沢賢治』の概要
生前未発表作。1934年(昭和9年)発表。1934年は宮沢賢治の亡くなった翌年にあたる。地学童話。独特の造語がおもしろい。
以上、『楢ノ木大学士の野宿/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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