幻影の盾/夏目漱石=読書に親しむDQ・FF・FE好きにおすすめ!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

幻影の盾-夏目漱石-イメージ

今回は『幻影まぼろしの盾/夏目漱石』です。

夏目漱石さんの『幻影の盾』は文字数24000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約80分。

王道ラブファンタジー。
白城の騎士ウィリアムと夜鴉城のクララ姫。
戦争に引き裂かれる恋人たち。
奇跡と呪いの魔力を秘めた幻影の盾は、
騎士の願いを叶えるか、それともその身を滅ぼすか……。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

これはアーサー王の時代の話。白城の騎士ウィリアムと夜鴉城のクララ姫は恋人同士だった。相思相愛の関係は、二人が幼少のときから、ウィリアムが26歳になるまで続いていた。

しかしあるとき、白城の城主と夜鴉城の城主との間に確執が生じる。原因は、政治上の議論のもつれか、あるいは鷹狩りの取り分を巡ってのいざこざか、はたまたクララ姫にかかわる言い争いだともいわれているが定かではない。ともかくも戦争は避けられない事態となっていた。

ウィリアムは、クララにもらった彼女の金糸の髪を眺めながら、愛する人のことを想う。十二、三の子供の時分、クララはウィリアムを「黒い眼の子」とからかった。ウィリアムが怒り「もう夜鴉城には来ない」と言うと、クララは泣いて謝った。

幻影の盾-夏目漱石-狐人的あらすじ-イメージ

ウィリアムが夏を彩る薔薇の茂みで、騎士の恋には四つの季節があるのだと、クララに教えたのは大人になってからだ。

一つ躊躇の季節。
二つ祈念の季節。
三つ応諾の季節。
四つDruerie(ドルエリ、結婚)の季節。

「あなたの恋はどの季節?」とクララは訊いた。「想う人のキスがあれば」と、顔を寄せるウィリアム。クララは赤くなって薔薇の花を投げた。花弁は雪となって散った。

もうDruerieは望めないのだろうか……。

ついに戦が七日後に迫った。ウィリアムは自室で一人、幻影まぼろしの盾の由来について思いを馳せていた。幻影の盾の中央にはゴーゴン・メデューサの顔がされている。幻影の盾は、かつてウィリアムの祖先が、北の国の巨人と戦ってこれに勝利を収め、その際巨人から譲られたものだという。

巨人曰く、幻影の盾は所有者の願いを叶えるが、その身を滅ぼすこともあるという。この盾を持って戦に行けば、四囲の鬼神が汝を呪うと。ウィリアムの祖先は盾を恐れて捨てようとするが、巨人は続けて予言を残す。百年後、南の国に赤衣せきいの美人がある。その歌が盾のおもてに触れるとき、汝の子孫は盾を抱いて歓喜するだろう……。

ウィリアムを心配した友シワルドがウィリアムの自室を訪ねる。シワルドは「クララと一緒に南方へ逃げろ」とウィリアムに助言する。使者を先行させて六日目の晩にはクララを舟に乗せる。戦の当日、成功すれば赤の旗を、失敗すれば白の旗を掲げさせるのだ。

戦の日、馬で駈けながら海を見るウィリアムの目に映ったのは――白の旗だった。ウィリアムはクララを求めて城を攻めた。やがて塔から火の手が上がった。その塔の上に金髪を振り乱す女の姿が。

「クララ!」ウィリアムが叫んだとき、女の影は炎の中に消える。そのとき、焼け出された二頭の馬がウィリアムのもとへ飛んでくる。何かに導かれるようにして一頭の馬に乗ったウィリアムは、何者かの「南の国へ行け」という声を受けて空を駈けていた……。

幻影の盾-夏目漱石-狐人的あらすじ-イメージ

乗り潰した馬の上で意識を取り戻したウィリアムは、なぜあの火の中に飛び込んでクララと一緒に……、恋の果て、呪いが醒めても恋は醒めぬと慨嘆する。……ふと、糸の音が聞こえてくる。その音を頼りに、ウィリアムは林の奥へと入っていく。そこには池があり、池の水際に岩があり、岩の上には赤衣の女がいて、知らぬ世の楽器を弾いている。

「ただ懸命に盾の面を見給え」女に促されるままウィリアムが盾を見つめていると、海の上に舟が一隻見えて……、その旗の色は……、「赤だっ」ウィリアムが叫ぶ。そこは常春の南国だ。二人は暖かい草の上に座っている。二人は熱いキスを交わす。ここにDruerieは成った。それは盾の中の世界であった。しかしいまやウィリアムこそが盾であった。

狐人的読書感想

幻影の盾-夏目漱石-狐人的読書感想-イメージ

『トリスタンとイゾルデ』
ガストン・ヴュシエール

幻影まぼろしの盾:ワルハラの国オジンの座の近く、火に溶けぬ黒鉄を、氷のごとき白炎にて鍛えた霊の盾。形状は満月のように丸く、輝ける色も月に似ている。縁には小指の先程の鋲がきれいに並んでいる。鋲の輪の内側には唐草模様、中央にはゴーゴン・メデューサの顔の意匠。ウィリアムの四世前の祖先が北の国の巨人より受け継いだ。霊力を有する盾であり、この盾を持って戦に臨むとき、過去、現在、未来にわたって願いを叶えることがある。しかし他方で四囲の鬼神に呪われることもあるという。

……ふむ、幻影の盾。

なんだか『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』といったRPGの装備みたいで、タイトルだけでワクワクして読み始めたのですが……、読みにくかった――とにかく読みにくかったです。

――とはいえ、幻影の盾、騎士ウィリアム、夜鴉城のクララ姫、白城の城主・狼王ルーファスなどなど、設定がいちいちRPG的(『ファイアーエムブレム』などSRPG的でもあります)なので、狐人的には結構楽しめた小説でした(しかし読みにくかったですが、……しつこし?)。

シワルド(=シグルド)、ワルハラ(=ヴァルハラ)、オジン(=オーディン)など、北欧神話(『ヴォルスンガ・サガ』、『ニーベルンゲンの歌』)を思わせる名称も熱い!

筋としては王道ラブファンタジーといってよいでしょうか。アーサー王の時代、騎士ウィリアムが主人公なので、王道ファンタジーというに些かの躊躇も持たぬ! ――わけなのですが(アーサー王……、メデューサ……、『Fate/stay night』を思い浮かべてしまうのは、僕だけ?)。

幻影の盾-夏目漱石-狐人的読書感想-イメージ

『ロミオとジュリエット』
フォード・マドックス・
ブラウン

ただし物語の展開は、『アーサー王物語』とはほとんど関係していません。あくまで時代設定として用いられただけのようです(他にも、盾の模様やその由来、ウィリアムがクララに教えた「騎士の恋の四期」、赤衣の美人などにもその影響が見られる)。僕としては、やはりこの物語展開には、(ウィリアム・)シェイクスピアさんの戯曲『ロミオとジュリエット』を彷彿とさせられてしまうのですが、いかがでしょうか?

調べてみると、『幻影の盾』は19世紀初頭イギリスの小説家ウォルター・スコットさんの小説『ラマムアの花嫁』がモチーフとされている、といった論がありました。これは名称の類似(「夜鴉城の城主=レイヴンズウッドの若殿」など)やその大筋からして間違いないように思えます。

ちなみに『ラマムアの花嫁』は1669年実際に起きた事件をモチーフとして書かれていて、歴史的、社会的、あるいは宗教的な対立といった、より現実的な面が描かれているのに対し、夏目漱石さんの『幻影の盾』はラブロマンスのほうにより重きを置いているように見受けられる、といいます。

要するに、『幻影の盾』のテーマは「男女間の愛」であり、ラブロマンスだと言い切れそうです(たぶん)。

夏目漱石さんといえば、(僕の中では)ロマンチストとして有名なように思うのですが、たしかにウィリアムとクララの恋も、ロマンチックに描かれているように感じました。

結末については、ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、……意見が分かれるところかもしれませんが。

ウィリアムがクララを救えなかったのは明らかなように見えます(ひょっとしたらウィリアム自身も……)。しかしながら、物語はおそらく幻影の盾の魔力によって、幻想の中へと続いていきます。

幻想の中でウィリアムとクララは結ばれ、表面上はハッピーエンドのように思えますが、これは判断に迷うところではないでしょうか?

僕としては、幻想の中(この世ではないどこか)で結ばれたという結末は、やはりバッドエンドのように思えるのですが……、しかし幸せな夢を見続けていられるのなら、厳しい現実を離れることもあながち不幸とはいえないような気もして……、ここはぜひ読んだ方のご意見を聞かせてほしいところであります。

冒頭「読みにくい読みにくい」と繰り返してしまいましたが、その要因は文語体であること、さらに迂遠な描写が多いことにあるのではないだろうか、と愚考しました。

文語体について、現代の読者である僕としては、あまり意味を見いだせなかったのですが(やはり口語体が読みやすい)、迂遠な描写については、それが鮮明なイメージを喚起する部分も多々あって、一概に悪いだけだともいえないところがあります。

最近の小説は、読みやすく、物語がおもしろいものが好まれる傾向にある気が、狐人的にはするのですが、映像的に美しい情景を喚起させられる描写、というのも、やはり一つ読書を楽しむ要素かと、改めて思わされた気がします。

とはいいつつも、現代には映画など優れた映像技術が発展していて、映像が見たければ、映画化、ドラマ化、アニメ化すればいいじゃない、という話になるのかなあ、と思えば、今後もやはり読みやすくおもしろい物語が重視されていくわけで、修辞的な文章的表現技法は敬遠されていくことになるのでしょうか?

……まあ、物語がおもしろければ、迂遠な描写だって読まれるわけで、それがイメージを喚起する美しいものであればなおよいわけで、両者を備えている作品であればやはり最良、というだけのお話なのかもしれませんが。

――というようなことを考えさせられた作品でした。

(しつこいようですが)読みにくいですが、読書好きで、かつ『ドラクエ』、『ファイナルファンタジー』などのRPG、『ファイアーエムブレム』などのSRPG好きにはなかなか楽しめる短編小説だと思います。夏目漱石さんということで、一般教養的に読んでおいても損のない作品なので、ぜひに。

読書感想まとめ

幻影の盾-夏目漱石-読書感想まとめ-イメージ

ある程度読書に親しい方、かつ『ドラクエ』、『ファイナルファンタジー』、『ファイアーエムブレム』好きにおすすめな小説。

狐人的読書メモ

そういえば、『ファイアーエムブレム ヒーローズ』ってどうなの?
(スマホ持ってないから……)

・『幻影の盾/夏目漱石』の概要

1905年(明治38年)4月『ホトトギス』にて初出。夏目漱石初期短編小説。ラブファンタジー。

以上、『幻影の盾/夏目漱石』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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