或旧友へ送る手記/芥川龍之介=痛いのは嫌とか人間獣だとか。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

或旧友へ送る手記-芥川龍之介-イメージ

今回は『或旧友へ送る手記/芥川龍之介』です。

文字3500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約19分。

生活難、病苦、精神的苦痛。それらは道程であって動機のすべてではない。唯ぼんやりした不安。人間は人間獣であるために動物的に命を失うことを怖れている。なのになぜ……?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

自ら命を絶つ人の動機。生活難、病苦、精神的苦痛――新聞に出る動機は、動機に至る道程であって、動機の全部ではない。が、少なくとも、自身の場合は「唯ぼんやりした不安」「何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安」だった。

苦しまない手段、かつ美的嫌悪の少ない手段を考えた結果、それは薬品を用いることだという結論に至った。場所については遺族となる家族のことを思った。わずかな遺産しか残せないこと。縁起が悪い家は売れないかもしれないこと。

手段を定めた後も半ば生に執着していたこと。スプリングボード(飛び込み台)が必要と感じ、それは道連れとなってくれる女性だと思い、結局できない相談となった。妻のためにはそのほうがよかったに違いない。時間も自由に選べる。最後の工夫は家族に気づかれないようにすること。

人間は人間獣であるために動物的に命を失うことを怖れている。生活力は動物力の異名に過ぎない。食色に飽きたところをみると、次第に動物力をうしなっているのだろう。

氷のように澄み渡った、病的な神経世界にいる。永久の眠りにつけば、幸福ではないにせよ、平和であるには違いない。自ら命を絶つと決めたいま、自然がより一層美しく感じられ、その矛盾はひとに笑われるものかもしれない。

末期の目に、自然の美を、他人よりも見、愛し、理解した。それだけは苦しみを重ねた中にも多少の満足。この手紙を何年かは公表しないでほしい旨。

付記として、自ら神としたい欲望について。いまその欲望はないが、二十年前には自ら神としたい一人であった。

狐人的読書感想

自ら命を絶ったことで知られる、芥川龍之介さんの遺稿(遺書)だそうです。

狐人的には「もっと長生きして、もっとたくさん書いてほしかったなぁ」と単純に思ってしまいますが、これは自分勝手な思いというか、自ら命を絶つほど追い詰められた人に言うべきことじゃないのかな、って気がします。

自ら命を絶つということについて、考えたことがある人とない人って、どっちが多いんだろう? ――なんてことは疑問に思ったりします。

僕としては考えたことがありますし、たぶんまったく考えたことがないという人は少ないんじゃなかろうか、なんて印象を持ちます。

芥川龍之介さんは動機について「生活難、病苦、精神的苦痛などは動機の全部ではなく、自分の場合は『唯ぼんやりした不安』『何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安』」といったことを書いていますが、これはなんとなく理解できます。

後半に『僕はゆうべ或売笑婦と一しよに彼女の賃金(!)の話をし、しみじみ「生きる為に生きてゐる」我々人間の哀れさを感じた。』という一文があります。

この一文から(この作品に書かれている限り)、主な動機は生活難なんじゃ……という印象を受けましたが(もちろんそれ以外にも精神的苦痛とかあるんだと感じますが)、『唯ぼんやりした不安』『何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安』という言い方のほうがたしかにしっくりくるんですよね。

いじめとか生活苦とかで自ら命を絶つということは、狐人的には想像しやすい気がしましたが、「生きるために生きている人間の哀れさ」については、ちょっと実感が難しい気がします。

たぶん「目的なく生きること」「生存のためのみ生きること」へのむなしさみたいなものかと考えるのですが……、多くの動物が「生きるために生きている」中で、人間だけがそうすることをむなしいと思うのは違和感がある気がしますし、しかし「生存以外の目的を持って生きる」からこその人間だとも感じるんですよね。

手段については「苦しまない手段」っていうのはすごく共感できます。やっぱり、自ら命を絶つことを考えたとき、誰でもこれを第一に考えるんじゃないですかね(正直、これが完全に叶うなら、未練とか後悔とか、自ら命を絶つことを怖れる理由は何もないような気がします……とは、言い過ぎたかもしれません)。

ただ、スプリングボードはいただけませんでした。

一人よりも道連れがいたほうが……って気持ちはわかるのですが、それはなんか好ましくないと思ってしまうんですよね……(ひょっとしたら、これが僕の美的嫌悪なんでしょうか……)。

ともあれ、自ら命を絶つことを考えた結果、「痛いのはいや」という結論に至った……なんだか、もっとちゃんと考えろ! というか、真剣味にかけるような、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

痛いのは嫌とか人間獣だとか。

狐人的読書メモ

・「人間は人間獣であるために動物的に命を失うことを怖れている」はずなのに、「人間は自ら命を絶つことを欲す」というところに、なんか興味を引かれてしまう。

・『或旧友へ送る手記/芥川龍之介』の概要

1927年(昭和2年)『東京日日新聞』『東京朝日新聞』に掲載。『芥川龍之介全集』第16巻収録。『唯ぼんやりした不安』というフレーズは有名らしく、大正文学の終焉とのかかわりで論じられることも多いそう。自ら命を絶つということ。

以上、『或旧友へ送る手記/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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