狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『サルト サムライ/新美南吉』です。
文字600字ほどの童話。
狐人的読書時間は約1分。
感情は本能から生じている。斬りたい、グロいものが見たいのは、狩猟本能を充足させたい。かわいそうと思うのは、助け、守り、種族の数を維持・増加するための生存本能。……かも。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(今回は全文です)
『猿と侍/新美南吉』
五人の侍が旅をしてある日山道を通りかかると、木の下に一匹の猿がいました。
「あの猿を斬ろう。」
「そうだ、私が斬る。私はもう一月あまり刀を抜かないので、腕がむずむずする。」
「いや、私が斬る。私の刀はよく斬れる。」
「だめだだめだ、君らの腕では猿をとり逃がしてしまう。わしが斬る。」
「お願いだ、私に斬らせてくれ。」
けれど、よく見ると、その猿は病気にかかって動けなくなっていました。病気の猿を斬っても仕方ないというので、五人の侍はその猿を連れてゆきました。やがて猿は、病気も治って五人の侍によくなれました。ところが、毎日行っても行っても広い野原で食べ物がないので猿を殺して食べなくてはならなくなりました。
「お前斬れ。斬りたいのだろう。」
「いや、お前斬れ。俺の刀は刃がこぼれている。」
「お前はどうだ、腕がむずむずしてるんだろう。」
「うーん、だめだ、お腹が痛いから。」
そのうちに野原の向こうに村が見えてきました。
「あっ村だ。あそこへゆけば食べ物はある。猿は殺さなくてよい。」
五人の侍は猿を斬らなくてよかったことを、目に涙をためて喜びました。
狐人的読書感想
う~ん、斬りたがってたなぁ、侍(汗)。最後、侍は斬らずにすんで、猿は斬られずにすんで、よかったです。
侍たちの感情とその変化って、単純なようでいて複雑な気がしました。
「猿を斬りたい」という思いはわかりやすいです。
人類は300万年の歴史の中で299万年は狩猟生活をしていました。多くの人間心理は狩猟本能から発生している、とも考えられているようで、発達した脳が本能を複雑に感情化しているのだとか。
侍が「斬りたい」気持ちも狩猟本能からきている感じを受けます。
お腹が空いたときに狩る、というよりも、狩れるときに狩っておいて、お腹が空いたら食べる、って感じなんですかね。
人間の攻撃性であったり、残忍性であったり、確かに狩猟本能に根ざしたものだというのは、なんとなく納得できます。
本能と感情は別のものだと思ってきたので、本能から感情が発生しているという考え方は新鮮に感じました。
そんな「猿を斬りたかった」侍たちですが、猿が病気なのを知ると同情して世話してやります。
人間は、自分が痛くても痛みを感じて、他人が痛いのを見ても痛みを感じます。そのとき脳に流れる信号は同じものなんだそうです。
同情すれば人は他人を助けますが、この感情は、人間が種族として繁栄する(個体数を増やし維持する)ための生存本能からきているといいます。
それを別種の動物に当てはめて行動しているのは、本末転倒している気もしますが、複雑化した脳がなせるわざだとすれば、頷けるところです。
(そういえば、動物がべつの動物と仲よく暮らしていたりする―ように見える―ことがありますよね。あれも生存本能からくる行動なんですかね)
同情は、助けたい、守りたいという気持ちにつながっていき、やがて対象を仲間と認識するようになります。
侍たちは猿を仲間みたいに思うようになったのでしょうね。だから今度は食べ物がないという切迫した状況にもかかわらず、最初はあれほど「斬りたかった」猿を斬れなくなってしまいました。
そこには同情ばかりでなく、罪悪感もあったでしょうね。
罪悪感もやはり「生存のためのルールを守る」という生存本能から発生した感情のようです。
前述のとおり、人は同情や罪悪感によって個体数を維持・増加しているとも考えられますが、同情した結果、あるいは罪悪感におしつぶされて、命が絶たれてしまうケースもあります。
まさに本末転倒。生存のための本能、その本能からくる感情が、結局人間を生きづらくしている結末に、何か不思議なものを感じます。
まあ、全体的に見るなら、同情や罪悪感が人間の命を絶つケースは、命を救うケースよりも多いので、この感情機構がいまも存続されているということなのでしょうね。
感情や理性も結局本能なんだねって、これまであまり考えたことがなかったので、一つの考え方として新鮮に感じた、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
斬りたい斬りたくない、感情的本能論。
狐人的読書メモ
・とはいえ、感情的本能論では説明できない感情もある気がする。ない気もする。
・『サルト サムライ/新美南吉』の概要
1950年(昭和25年)5月『がちょうの たんじょうび』(羽田書店)にて初出。今回の感想以外にも、動物愛護や人間のエゴについても、考えさせられる内容だった。余談だが、ダチョウ俱楽部の「どうぞどうぞ」を彷彿とさせると、ちょっと思ってしまった。
以上、『サルト サムライ/新美南吉』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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