狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『保吉の手帳から/芥川龍之介』です。
文字数10000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約30分。
保吉シリーズ。芥川龍之介の教師時代。
文豪・芥川龍之介の人柄に興味のある人、教師の人におすすめ。
5編の掌編からなる短編小説。
スカッとジャパンやH×Hを思わせる話も。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
- わん
海軍学校の英語教師をしている保吉は、レストランの二階にいた。彼の後ろでは二人の海軍士官がビールを飲んでいた。一人は顔なじみの主計官だった。彼は突然「わんと言え」と言った。窓の下に十二、三歳の乞食の少年がいた。「わんと言えばこれをやるぞ」、主計官がさらに言うと、「わん」、乞食の少年が鳴いた。……一週間後の月給日、保吉は主計官の前にいた。「わんと言いましょうか? 主計官」、その声は天使よりも優しかったと保吉は信じている。
- 西洋人
この学校には二人の西洋人がいた。イギリス人の好々爺、タウンゼンド氏は「神秘の扉は俗人の思うほど、開き難いものではない。むしろその恐しい所以は容易に閉じ難いところにある。ああいうものには手を触れぬがよい」という。若い洒落者のアメリカ人スターレット氏は「教師になるのは職業ではない。むしろ天職と呼ぶべきだと思う」という。保吉はそれぞれに好感を抱いている。
- 午休み ――或空想――
学校での昼休み中、校内を散歩する保吉の見た空想。二匹の毛虫が会話をしている。「この教官はいつ蝶になるのだろう?」。「人間は蝶にならないのかもしれないわ」。「いや、あそこにいま飛んでいるよ」。「なるほど、しかしなんという醜さでしょう!」。保吉は額に手をかざし、頭上の飛行機を仰いだ。
- 恥
あるとき、教科書があまりに退屈だったので、授業がすこぶる早く進んだ。教師は思想問題、時事問題、道徳、趣味、人生観――といった教師の心臓に近いものを教えたがるものだが、生徒は学科以外のなにものも教わりたがらない。ついに下調べをしてきたところが終わってしまい、苦し紛れに「質問は――」と口にしようとして真っ赤になり、保吉はむちゃくちゃに先を読み進めるのだった。
- 勇ましい守衛
保吉も知っている大浦という守衛が、盗人を取り逃がした。「無理をして捕まえても賞与も何ももらえませんから――」。大浦は苦笑した。「賞与さえ出れば誰でも危険を冒すかどうか、それもまた少し疑問ですね」。
狐人的読書感想
芥川龍之介さんは1916年(大正5年)12月から1919年(大正8年)3月まで、二十四歳からのおよそ二年間、横須賀の海軍機関学校で英語の先生をしていたことがあるそうで、その頃の体験をもとに綴った作品が『保吉の手帳から』とのことです。
それだけに、5つの掌編それぞれから、著者のお人柄が感じられる短編小説になっていて、とても興味深く、またおもしろく読むことができました。
文豪・芥川龍之介さんという人に興味のある方、あるいは教師など、人にものを教えることを生業にしている方におすすめしたい作品です。とくに先生目線では共感できたり、意外な目の付け所に感心できたりするところがあるんじゃなかろうか、などと想像してしまいます。
芥川龍之介さんの分身ともいえる「保吉」を主人公にした作品群を「保吉もの」と呼ぶそうで、ほかに『文章』、『寒さ』、『魚河岸』、『お時儀』、『あばばばば』、『少年』などのタイトルがあるらしく、ぜひ継続的に読んでいきたいと思いました。
それでは『保吉の手帳から』の5つの掌編を読んでの感想など、それぞれ順番に綴っておきたいと思います。最後までお付き合いいただけましたら望外の喜びです。
・わん
『痛快TV スカッとジャパン』を彷彿とさせるようなお話でした。軍隊組織の権力をかさに着て、物で釣って少年を犬のように扱った主計官に、芥川龍之介さんたる保吉が、ささやかな一矢を報いたお話のように捉えましたが、一方で、「パンのために教師になった」保吉にとって、この事柄はささやかな皮肉を言うこと以上の、激しく感情を揺さぶられるような事件ではなかったのかなあ、ということも感じました。
良くも悪くも、保吉の淡々とした日常の一コマが描かれています。
「わん」つながりといえますか、『HUNTER×HUNTER』の「キメラアント編」で、人間犬にされた人が出てくる場面があるのですが、そのときにも思ったのが「ひとはどこまで人間としての尊厳を保てるのだろう?」ということです。
命の危機に瀕しているとき、人間としての尊厳さえ捨てれば生き続けることができるというとき、はたして自分はそれを手放さずにいられるだろうか、あるいはそれを捨ててでも生きたいと願うだろうか、できれば前者でありたいけれど、実際にそのときになってみなければわからないような気がしました。
少なくとも、他者の尊厳を貶めるようなマネだけはしたくないなと思っていますが……。
・西洋人
そのひとの考え方や意見について、「あ、それわかるわ~」みたいな、共感したり好感を抱いたりすることはけっこう多いような気がするのですが、それは一時的な感情で、すぐに忘れてしまって、長く覚えておくことがなかなか難しいように感じることがあります。とくに文化や価値観の違う外国人の方々の、共感を覚えた意見などは、長く覚えていたいと願うことも多いのですが……。そういったことを手帳やブログやSNSに書き残しておくというのはひとつ賢いやり方だと勉強になりました。
・午休み ――或空想――
「意味がわからない」と思ったりもするのですが、こういう観念的というか、空想的なお話が僕はけっこう好きです。みなさんはどうでしょうね? 授業中や仕事中、退屈や生きにくさを感じるとき、ふと空想してしまうことってありませんか?
・恥
先生の方、あるいは生徒の方は思わされることの多いお話のように感じました。先生も教科書の内容に退屈することがある、というところはわかる気がしましたし、先生が本当は教科書以外のことを教えたいという気持ちも理解できました。そのお話がおもしろい場合もあればおもしろくない場合もあって、生徒としてはやはり勉強以外の無駄な話はしてほしくない、というところもそのとおりかもしれないと思いました。成功の話ではなくて失敗の話を書いているところも芥川龍之介さんのお人柄が感じられておもしろかったです。
・勇ましい守衛
夢野久作さんの『懐中時計』を読んだことを思い出しました。これは誰も見ていなくてもしっかりと自分の仕事をしよう、といった仕事に対する理想的な姿勢が教訓として含まれている作品でしたが。
だけど現実的には、誰でも自分の仕事の待遇については、多かれ少なかれ不満を持っているものなのではないでしょうか? がんばってもがんばらなくても、いつも変わらぬ安い給料しかもらえないのなら……、という気持ちはわかりやすいように思います。
もちろん不満ばかり言って、仕事をしないのも問題だとは思うのですが、……なかなか悩ましいところです。
なので、僕はどちらかといえば大浦のほうに感情移入してしまい、保吉の言い方はちょっと意地悪なように感じてしまいました。
とはいえ辛辣な指摘、という感じは受けず、なんというかいたずらっぽい感じに仕上がっていて不快には思えませんし、おもしろい掌編だと思いました。
読書感想まとめ
保吉は著者の分身、ゆえに著者の人柄が感じられる作品です。芥川龍之介さんの教師時代の体験が描かれています。文豪・芥川龍之介さんに興味を持っている方、あるいは教師の方におすすめします。
狐人的読書メモ
ほっ、とサンドウィッチ、ゲーテ、エサウ、レンブラント、ネーベル・オレンジ、シェイクスピア、ワーズワース、ロバート・ルイズ・スティーヴンソン、ラマルク、などなど、英語教師だからか、横文字が多いのも印象的だった。
・『保吉の手帳から/芥川龍之介』の概要
1923年(大正12年)12月、雑誌『改造』にて初出。私小説的な短編小説。「保吉シリーズ」。他に『文章』、『寒さ』、『魚河岸』、『お時儀』、『あばばばば』、『少年』など。
以上、『保吉の手帳から/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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