狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『報酬/織田作之助』です。
文字数400字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約1分。
1分で読めるブラックユーモア、
ということは伝わってきたのですが、
調べてみると……、笑えねえ~、
となってしまうのは僕だけ?
日本の借金1000兆円超、
……預金封鎖、日本で起こらないよね?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ブラックユーモア。
笑えるも笑えないも知識量次第。
(短いので全文です)
『報酬/織田作之助』
家には一銭の金もなく、母親は肺病だった。娘の葉子は何日も飯を食わず、水の引くようにみるみる痩せて、歩く元気もなかったが、母親と相談して夜の町へ十七歳の若さを売りに行くことにした。母親も昔そんな経験があったのだ。
夜、葉子は町角でおずおずと袖を引いたが、男は皆逃げ出した。それ程葉子は醜かったのだ。おまけに乾いた古雑巾のように薄汚い服装をしていた。葉子はすごすごと帰って水を飲み、母親にそのことを話すと、
「こちらから袖を引くよりも、男がからかいに来たら素人らしくいやですとモジモジしていれば、案外ひっ掛るかも知れないよ」
「いやです――と言ったらいいの……?」
翌る夜、葉子はまた出掛けた。そしてぐったりして帰って来た手には三枚の紙幣を握っていた。が、調べてみると、三枚とも証紙の貼ってない旧円だった。葉子はわっと泣き出した。
次の夜また出掛けた。男がからかいに来ると、葉子は、
「いやです、いやです、旧円はいやです」
狐人的読書感想
ブラックなおもしろみのある小説なんだろうなあ、ということばかりは伝わってきたのですが、恥ずかしながら知識量が不足していたため、はじめ意味がよくわかりませんでした。
旧円って何?
――という感じだったのですが、これを調べていくうちに、僕は「笑えねえ~」となってしまいましたが。
他の方がどのように感じるか、非常に興味があります。
そんなわけで、今回は物語中のキーワードである『旧円』(預金封鎖)について調べたことを綴っていきます。お付き合いいただけましたら幸いです。
一応、『報酬』のブラックユーモアな部分を取り出してみると、
- 十七歳の若さを売りに行くことになった葉子は男が逃げ出すほど醜かった。
- 母親に話すと「いやです」とモジモジしてひっかけろと言われた。
- 葉子がようやく手に入れた「報酬」は旧円だった。
- 「いやです、いやです、旧円はいやです」
1.は説明の必要もないでしょう。ホントは笑っちゃいけないのですが、おもしろさを表す言葉には「滑稽」というものがありますからね。
2.についても、母親は男の心理をなかなか的確に捉えているといえるのではないでしょうか? 「いや」と言われるとついついやりたくなっちゃう、とかいってしまうと、小学生男子が同級生女子をいじめてしまう心理みたいになってしまい、伝わりにくいかもしれませんが。じつはそんなに好きじゃないのに付き合い始めた相手に、急に別れ話を切り出されると、なんか別れたくないような気持ちになる、みたいな感じでしょうか?(これはプライドの問題? 適切に例えられている自信なし!)ちなみにこの「ダメと言われるとやりたくなっちゃう」人間の心理をカリギュラ効果といいます。
さて。
問題は3.から4.に至るまでの過程で出てくる『旧円』ですが。これを知るには戦後日本で実施された『預金封鎖』を知らなければなりませんでした。
戦後日本で預金封鎖が行われたのは1946年。
まず政府が新円を発行して、従来の紙幣は旧円となります(新円切替)。それから銀行預金の引き出しに制限を設け(預金封鎖)、一定期間をもって旧円は使えなくします。すると期間内に預金を全額引き出すことは不可能なので、銀行に預けたままの旧円は無価値となり、実質国に取り上げられる形となります。
作中の『調べてみると、三枚とも証紙の貼ってない旧円だった』という描写は、当時新円の印刷が間に合わなかったので、回収した旧円に証紙を貼って流通させていたことをいっているようです。
これを踏まえると、3.から4.の流れも見えてきます。
要するに、葉子は男にだまされて、使えなくなった旧円を掴まされてしまい、次の夜、母親に教えられたカリギュラ効果を狙った「いやです」を、もう騙さないでください、といった切実な意味を含む「いやです」として使うことになってしまった、その対比にブラックユーモア的なおもしろみがあるわけです(てか、この説明必要なのひょっとして僕だけ?)。
……ここまで作品のおもしろみについて語ってきて、ここでこれを言うのもなんなのですが、これ笑える?
家にお金はなく、母親は病気、何日もご飯を食べられないで、ついに娘は十七歳の若さを売ることに、しかし娘は不器量で、貧しさゆえに薄汚い服装、男どもは彼女を見て逃げ出す始末、ようやく報酬を手に入れてみれば使えない旧円……、それでもまた次の夜には出かけなくちゃいけないって――全然笑えないのですが……。
さらに。
ここまでつらつら述べてきた預金封鎖ですが、これは戦後混乱期の特別措置、というわけではないそうです。世界中どの国でも、やろうと思えばいますぐにでも実施できる政策と知って驚きました。
近年では、2013年3月16日、キプロスで預金封鎖が行われています。
さらにさらに。
……預金封鎖、日本で起こらないよね?
――という疑問を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか?(かくいう僕が持ちましたが)
日本の借金は1000兆円超、国民一人当たりでは800万円――これは預金封鎖の行われた戦後日本を上回るものだといいます。
これを理由に、エコノミストの人たちの間でも、預金封鎖の可能性は低いとしながらも、確実にないとは言い切れないのだとか。
1000万円の預金保証はあてにならない。では不動産や金などの実物資産はどうか? これはたしかに預金封鎖には有効そうなのですが。預金封鎖からの資産課税……、効率的に個人資産を把握するためのマイナンバー制度……、インフレ……、なんだか調べていると、政府は預金封鎖を前提に、政策を進めているようにしか思えなくなってきます。
――かと思えば、預金封鎖しないためにも「増税増税ぃ」と、情報操作を受けているような印象も芽生えてきて……、
読書感想まとめ
やっぱ笑えねえ~。
狐人的読書メモ
笑えるも笑えないも知識量次第、何気なく使ったけれど、意外と箴言だったかもしれない(――という恥さらしな自賛)。
(▲これ、ブラックユーモア?)
(ただの自虐か……)
・『報酬/織田作之助』の概要
1976年(昭和51年)発行、『定本織田作之助全集 第六巻』(文泉堂出版)に収録された短編小説。1分で読める笑えないブラックユーモア。
以上、『報酬/織田作之助』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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