吉宗の星

文学・評論

『よむかも』な本の基本情報

  • 著者      :谷津矢車
  • 出版社   :実業之日本社
  • 定価      :1700円+税
  • 発売日   :2021年5月20日
  • 単行本   :336ページ
  • ISBN-10:4408537829
  • ISBN-13:978-4408537825

『よむかも』な本のポイント

  • 徳川八代将軍? 享保の改革? 歴史の授業か何かで聞いたことはあるある?

『よむかも』な本のレビュー

  • 『吉宗の星』よむかも。
  • 徳川八代将軍・吉宗ってどんな人なそ?
  • 享保の改革などの政策により、幕府の再建を図った名君として知られる。
  • もともとは紀州藩の部屋住みの三男。将軍どころか藩主すらあり得ない。
  • しかし父と二人の兄が死に、紀州藩主となる。
  • この三人の死は「吉宗の毒殺」との見方も。
  • このことはよくフィクションで採用される。
  • その際の吉宗は冷酷非情の人物として描かれる。
  • この本でも毒殺説が使用される。
  • なのに、今までにない徳川吉宗の物語が展開される。
  • 徳川新之助(のちの吉宗)は、紀州藩主・徳川光貞の三男だった。
  • でも、淋しい部屋住みの日々を過ごしてた。
  • 母親である紋の身分が低かったからだ。
  • 味方といえば、学問の師である高僧・鉄海。
  • そして共に育った乳兄弟にして唯一の家臣、星野伊織。
  • それだけ。
  • 五代将軍・綱吉から下賜され、三万石の葛野藩主になっても状況は変わらず。
  • ただ願うのは、いつか母と一緒に暮らしたい。
  • そんな新之助のために伊織が暗躍。
  • 毒による暗殺により、新之助を紀州藩主の座に押し上げる。
  • しかし、それでもまだ足りない。母を世の中のすべてから守る力が足りない。
  • 新之助は名を吉宗とし、さらなる地位を求め江戸へ。権謀術数の戦場へ。
  • 将軍の座を狙う吉宗は、大奥に楔を打ち込み、幕閣の権力者の力を削ぐ。
  • これに「絵島騒動」を絡めた著者の手腕はお見事。
  • 海外の謀略小説に匹敵する魅力が、この本には溢れている。
  • この小説はピカレスク・ロマン。
  • 権謀術数の中心にいる吉宗は、悪人といえる。
  • でも、この吉宗が真に求めたものは、権力の頂点ではない。
  • 母親の紋と。兄とも友とも思う伊織と。共に暮らしたい。
  • ただ、それだけ。欲しかったのは小さな幸せ。
  • しかし、そんな吉宗の願いに基づく行動が、逆に彼を孤独にする。
  • 将軍になった吉宗の、索漠たる心象風景には言葉を失う。
  • だが、それだけでは終わらない。孤独な吉宗に与えられるひとつの慰め。
  • 著者は人物を厳しく見つめながらも、優しさを決して忘れていない。
  • 脇役にも注目。著者独自の人間像となっている。
  • 紀州藩時代の吉宗の後見役、のちに御側御用取次となる小笠原胤次。
  • 勝手掛老中の松平乗邑。
  • そして、尾張藩主の徳川宗春。
  • 一般的に「宗春は吉宗と対立していた」といわれている。
  • が、この本での宗春は吉宗のよき理解者として描かれている。
  • 互いを深く認め合うふたりの関係は、読み進めるうちに納得するものがある。
  • 宗春が尾張藩で実行した、消費による財政拡張政策。
  • 一見、吉宗の財政緊縮政策の真逆を行くものに思える。
  • でも、そうじゃなかったんだよ。
  • 物語の中に巧みに構築された著者の解釈には説得力が感じられる。
  • ホントにこういう人たちだったかも、って思わされる。
吉宗の星
吉宗の星

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