第18話 新労働価値説で説く、ピサーラのピザの美味しさの秘密。

くまさんと出会った。
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本日のランチはピサーラのピザでした。
大変美味しゅうございました。

二文だ。二文で済むのである。

しかしなぜか、

二文で済ますには実に惜しい。

それがピサーラのピザだ、
と思うのは私だけ……??

 

* * *

 

「はい、ピサーラお届け!!」

まずテーブルに着くと、
もはや恒例となりつつあるくまのアイテム紹介から、である。

なぜ、人(?)は秘密(?)のアイテム名を
でかでかと言ってしまうのだろう?

それはこの番組を見ている視聴者の方々に、
この商品を知ってもらうために他ならない。

ここでの視聴者とは当然裸の少女――

「わー、ぱちぱちぱちー」

いや、裸の少女はもちろん出演者――
当然、お囃子は欠かせない。

この裸の少女実にできる裸の少女――

「でも、お高いんでしょう?」
「よくばりよくばりイチキュッパ♪ ――って、いや、それはまだ早いって、メアリ君!?」

仕込みは万全であったのだが……
しかし異世界の住人が現代のお約束を十全に解するのは難しかったようだ。

――そんなわけでこの番組は、見た目だけは愛らしい
くまのぬいぐるみと裸の少女でお送りします。

……大丈夫か、この番組?

とまれ、くまが何もない空間から
――すなわちアイテムボックスから取り出したるは、
一枚の箱であった。

これぞ、まさしくピザボックスであった。

「それでは、れっつ開封の儀!」
「おーぷんさらみ!」

いや、照り焼きチキンなのだが……。
やはり異世界の住人が現代の以下略。

いよいよテーブルに置かれたピザボックスのフタをくまがオープン。
――と、

「がーっしゅ! 信じられない! でかした、お前!」

フタの裏側には、なんと『私、妊娠したわ!』
彼女からのサプライズメッセージ――

「わたしはまだ処女です!」
「では、いぇす処女懐胎?」

サプライズメッセージは、入っていなかった。

「のぉ処女懐胎! それは娘を愛しすぎた父親が、その愛する娘に突然の懐妊を告げられたときの幻想!」

……お父さん、私、妊娠しちゃった。そんな馬鹿な! 相手は誰だ!? そんな馬鹿な! 聖霊の子か!? そんな馬鹿な! じゃあやっぱり俺の……

「――しかし、これほど神の子や聖母を象徴するファンタジーもないよね!」

それもそのはず、処女懐胎は誤訳の産物とされている。

とまれ、ピザボックスをオープンするときのワクワク感とは、
それで少しも失われるものじゃなし。
くまのテンションもこんなにも上がってるし!

そのワクワク感とは、宝箱を開けるときのワクワク感にも、
密林の箱を開けるときのワクワク感にも似ているぞ。

「わくわく」

ほら裸の少女も、もちろんワクワクしているぞ!

かくして箱を開けるとそこには未だ湯気の立つ熱々のピザが!
それにのって届く香りが、ああ香ばしい香りが!
追加トッピングのチェダーがジュウジュウいってるようではないか!

湯気が立つのはいい。けど、箱の中央部分が潰れてしまい――
フタにチーズやトッピングがくっついてしまう?

いいえ、そんなことはありません。
そのための中央の白い小さなテーブルみたいなプラスチック……?

はい、ピザセーバーですね。
ピザを分配するとき、これでフォークのようにピザを押さえる――
そんな反対側の手を汚さない使い方もできる、ピザセーバーです。
イマイチ使い方がわからない……と思っていた人は勉強になりましたね?

「では、いただきま~す!」

かくて、くまがピザセーバーを器用に使い、一切れのピザをつまみ上げる。
とろ~り、チーズが伸びる伸びる。

それを横から一気にがぶり!

あーあ、チーズが口の周りやほっぺたについちゃう?
でもおいしく食べるためにはでもそんなの関係ねぇ!

きたなーい? デートの時にそれじゃ恥ずかしい?

でも今はデートの時じゃないのである。
ペットと食べる団欒の一時なのである。

おっと、くまが何か言いたいようだぞ。少し待ってみよう。

もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
よーく噛んで、飲み込む。これ大事。

「それにマナーとかない方が絶対食事はおいしいって思うのは僕だけ?」

だってマナーってあれでしょ? 上流階級が優雅さを演出するための。

まあ確かに、大勢で食事するときには、一人がきたなーく食べちゃうと、
周りもなんだかいや~な気持ちになるのかも……。

だったら断然、食事は一人でするのをオススメしたいね。
俄然、裸の金髪ロリ美少女ペットと一緒に食べるのをオススメしたい!

みんなで食べるとおいしいよ? いや、一人で食べた方が絶対おいしいよ!
ビバ、おひとりさま! いつか一人焼肉にでも私は行きたい。

「さあ、メアリも早くお食べ!」

ほーら、見てごらん。ちゃんとご主人様の許可を得てから食べ始めた
お利口さんなペットな裸の少女を――

食前のお祈りを済ませてから、ご主人様を真似て
豪快にピザをぱくついているよ。

おっと、こちらも何やら言いたげな様子。しばしお待ちあれ。

もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
よーく噛んで、飲み込む。これ大事。
大事なことは二回言う。これも大事。

「な、なんでしょうか、この食べ物は!? パン? こんなにも薄いのに、パン? モチモチの食感が心地よく、小麦の風味が豊かすぎます! 硬くてパサパサおよびゴリゴリなのがチーズ――チーズであるはずなのに! こんなにもとろけて伸びるのがチーズ!? まろやかなコクと味わいがたまりません! しっとりやわらかなお肉! てか、お肉!? 今日は年に数度のお祭りの日なのでしょうか!? そして、甘辛いソースとマイルドなソースの、互いに互いを引き立て合う、まさに切磋琢磨するかつては敵同士だった今は仲間同士がごとき、このお味! なんだか背徳的な感じさえするおいしさです!!!」

ほら、そのおいしさに感動さえ覚えているよ!

「そうでしょう、そうでしょう。ほら、コカトリス・コーラもあるよ!」

ピザにはやっぱり炭酸飲料!

「ああ、シュワシュワが、シュワシュワがのどに痛気持ちいいです!」

お口の中をリセットしてくれるような、あのシュワシュワ感がアーノルド!

「ほら、お野菜もお食べなサラマンダーサラダ」

おっとここでサラダという名の粋な計らい!
食物繊維、それすごく大事!

「こんなにもおいしい草があっただなんて……」
「うん、感動は伝わってくるんだけど、言い方ね、言い方」

空腹に耐えかねて食べた道端の雑草とは違うんだからね、
キャベツにレタス。それらを抱き締め、
跪き、農家の人々に深ーく感謝したくなるんだからねっ!

……しかし、このランチメニューは確かに背徳的、
少女の後の体重増加を心配せずにはいられない。

まあ、この孤児の少女の場合はもっと丸みを帯びた方がいいんだけれど。
たぶん、そこまで考えての連日のジャンクなメニュー。
ベヒモスバーガーにタムタムのパンケーキにピサーラのピザという――
策士・諸葛☆くまの微少女育成計画であるに相違ない。

「丸々一枚照り焼きチキンはないない? マヨネーズを飲むつもりでご注文下さい? そんな覚悟はとっくの昔に決まっとるんじゃ! なぁ、同志諸君!」

――てか、いる? いてはるよね!? いるって信じているよ???

――さて、こんなにもおいしいピサーラのピザ。
その旨さの秘密とはどこにあるのだろう?

――新労働価値説で説明できると思うの。

それすなわち、労働量に応じて美味しさが増加する――

すなわち、熱々ピザを家まで配達してくれる。

人が私の食のためそんなにも働いてくれる優越が悦楽。

これが重要だと考える。

仮にピサーラのピザをテイクアウトしているとしたらもったいない。
なぜなら、ピザの原価とはせいぜい数百円程度。

なのに、よくばりよくばりイチキュッパ?
ちょっとおたく、お高すぎやしませんか?

あえて言おう。全然そんなことはないのである。

なぜなら、そのほとんどはデリバリーのための人件費。
つまり労働量への正当な対価なのだ。

テイクアウトしてもう一枚? 喜んでいてはいけない。

もう一度言おう。労働量に応じて美味しさが増加する!
人が私の食のためそんなにも働いてくれる優越が悦楽!

ネット注文あるいは電話注文!
家までわざわざ届けてくれる!

たまにはお母さんも、ご飯を買いに行かなくても、作らなくてもいいの!

そう、労働量こそがかけがえのないスパイス!

……と、そうこう言っているうちに――

「「ごちそうさまでした!」」

ランチタイムの終わりを告げる声が聞こえているよ。

「からの、ウォーターボール」

くまが呪文を唱えると目の前に水球が浮いているよ。

「からの、サイコキネシス」

すると、食べ終えてゴミとなったピザボックスが自ら水球の中へ。
自ずとギュッギュと丸まっていくではないか。

あーら不思議、みるみるうちに箱は拳大の段ボール・ボールに!
水で濡らすとこんなにも小さくなるだなんて!

「これでかさばるゴミもコンパクトに!」

油やチーズで汚れたピザボックスにあいや、資源価値やなし。
そのまま燃えるゴミとして捨てるのがよし!

「そして、最後にファイアボール!」

そうして魔法の火球により、灰も残さず消滅した段ボール・ボール。
ならば、なぜにピザボックスをわざわざ段ボール・ボールにしたし。
そのまま燃やせばよかったし。

――その理由は、神のみぞ知るセカイ。

そんなわけで――

本日のランチはピサーラのピザでした。
大変美味しゅうございました。

 

≪つづく≫

 

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