HUNTER×HUNTERは主人公の少年・ゴンが、ハンターをしている未だ見ぬ父に会うため、自らも同じ仕事を志す冒険活劇だ。
近頃、ライセンスだけを取得して実際のハントは行わないペーパーハンターが増えている問題がニュースになっているが、ハンターは少年ならば一度は憧れる仕事だろう。
かくいう私も、最近行った社会科見学にて、一つがダメになったときのため、将来の夢は複数考えておいたほうがいいよと諭されて以来、第一志望、第二志望と将来の夢を定めてきたわけだが、第三志望にハンターはどうかしら?
これが今回、私がHUNTER×HUNTERを読もうと思った理由である。
さて、ハンターと一口に言ってもその種類は多岐に分岐し、例えば、世界の財宝を発掘する財宝ハンター、ブラックリストの犯罪者を専門に捕獲する賞金首ハンター、未知の味を追求する美食ハンターなどさまざま。
とはいえ、ハンターと聞いて一般的にイメージされるのは、やはり銃や罠を用いて有害鳥獣をハントする害獣ハンターに違いない。
地域によっては、猟師やマタギなどと呼称されることもあり、農作物を荒らす鹿や猪といった野生動物を駆除する大切なお仕事だ。
しかし先述の通り、近頃ではペーパーハンターが増えているという。
なぜかしら?
それは、銃の適切な管理・運用が手間であったり、言わずもがな野生動物を狩り、解体するのはかなりの重労働であったりと、いくつかの理由が挙げられるが、それらすべてひっくるめて、とても大変な仕事だからと、まとめて言うことができるだろう。
そして、ハンターの仕事の難しさとは、決して厳しい肉体労働ばかりではないことを、HUNTER×HUNTERは示している。
主人公のゴンがハンターを志すきっかけとなったのは、彼の父親ジンの弟子であり、生物調査専門のハンターをしているカイトとの出会いだった。
その出会いとは、危険な時季にヘビブナの群生地に入ってしまったゴンをキツネグマが襲い、それをカイトが助けるというもの。
母グマを処分したカイトは、ゴンを一発ぶん殴り、こんな時季に子連れのキツネグマの縄張りに入る奴があるか、久々に胸クソ悪い殺しをやっちまったと戒める。
人に危害を加えてしまった獣は処分するしかない。
そう、有害鳥獣とは、人間の都合によって勝手に害悪であると定められてしまった野生動物達。
ここ数年では、エサを求めて都市部に出没するアーバンベアが社会問題となっているが、彼らも私達と同じようにただ日々を懸命に生きているだけであって、断じて人を襲いたくて襲っているわけではない。
これを処分するのに心を痛めないハンターはいない。
ところが、有害鳥獣の処分を非難する人々が後を絶たない。殺すのはかわいそうだ、捕まえて山に帰せばいいではないか。
もちろん、ハンターだってできることならそうしたい。けれども、一度都会の味を、栄養豊富なエサの味を覚えてしまったアーバンベアは、山に帰してもまた再び街に下りてくる。近隣に住む人々にしたら、アーバンベアに直接命を脅かされているわけで、野生動物に田畑を荒らされる農家にしても、有害鳥獣の駆除は死活問題となってくる。
母グマを処分したカイトが、さらに子グマを手に掛けようとしたとき、ゴンは子グマの爪で体を傷つけられながらも抱きかかえて庇い、『オレが育てる!』と強い目で訴える。そんなゴンの気持ちが通じたのか、子グマは彼に懐いてしまう。それを見たカイト曰く、『いいハンターってやつは動物に好かれちまうんだ』
以上のように、良心と使命の狭間で、人々に非難されながらも、動物をハントするハンターは、肉体を酷使するばかりではない。強い心が必要となってくる生業なのだ。
ハンターってカッコいい。
かくしてカイトに憧れ、ハンターになりたいと思った少年は、きっとゴンや私だけではないはず。すると、我々は自然、ハンターライセンスの取得を目指し一念発起することになる。こうして、やがて挑戦することになる、倍率数万分の一とも数十万分の一ともいわれるハンター試験の厳しい審査の数々もまた、私達に大事なことを教えてくれる。
HUNTER×HUNTERの物語の中でゴン達が受験するハンター試験とは、審査会場に辿り着く前からすでに始まっている。そんな道中、志を同じくするハンター志望者・クラピカ、レオリオと仲間になったゴンは、さらなる行き道で究極の選択を迫られることに。それこそは、ドキドキ2択クイズである。
審査員の老婆が問う。これから一問だけクイズを出題する。考える時間は5秒だけ。もし間違えたら、則失格、今年のハンター資格取得は諦めな。答えは①か②で答えること。それ以外の曖昧な返事は全て間違いとみなす。それでは問題。お前の母親と恋人が悪党に捕まり、一人しか助けられない。①母親、②恋人、どちらを助ける?
まさか……、本気か? こんな問題に万人共通の答えなどない。老婆の好みの答えを予想しろとでもいうのか? クラピカの如く悩んだ少年は、私だけではないだろう。
実際、このような究極の選択に遭遇したことが私にも何度かある。
例えば、①オネピカード、②ボケモンカード、どちらを始める? この問いは我々現実世界の少年にとって非常に重要で、オネピカード派に属するのか、それともボケモンカード派に属するのか、学校内での人間関係を構築する上で基本的な選択となる。ここで下手に両方ともに手を出せば、「このコウモリ女郎! メロメロ甘風!」と、自分のリーダーかキャラ1枚までを、このバトル中、パワー+4000。その後、自分の手札が3枚以下の場合、カード1枚を引く。カウンターを使われ、ハブられたとしてもおかしくない。
あるいはこの夏休みの間に、両親が離婚することになったとき、①ママ、②パパ、どっちについてくる? 勉強ができない妹のことで、教育に厳しかった母と自由に育てたかった父との間でケンカが絶えなかったことが原因だった。妹が父についていくと即答したのは言うまでもないけれど、私はどうしたらいいんだろう? 成績優秀な私にとって、母はとても優しくて良い母親だ。けれど、もしこれから中学、高校と進学するにつれ、難化していく授業について行けず、私の成績が落ち込むようなことになったとしたら、それでも母は私に優しく接してくれるかしら。私も父を選択した方がよいのではないか。でも、そうすると母を一人ぼっちにしてしまい、それはすごくかわいそうじゃないか。
………………。
ドキドキ2択クイズの正しい答えは『沈黙』だった。
頭のいいクラピカが解説するに、正解なんて言葉ではくくれない。このクイズに正解なんてない。しかし、解答は①か②でしか言えないルール。つまり、答えられない。沈黙しかない。
こうして審査に合格したことがわかっても、ゴンはまだ黙ったまま考え続けていた。レオリオが『何だよ、まだ考えてたのかよ。もういいんだぜ』笑って言っても『もし、本当に大切な2人の内一人しか助けられない場面に出会ったら…どうする? どちらを選んでも本当の正解じゃないけど、どちらか必ず選ばなくちゃならない時…いつか来るかも知れないんだ』
そう、それこそがこのクイズの真の意図、あらゆる残酷な空想に耐えておけ、現実は突然無慈悲になるものだからな。いつか来る、別れ道に備えて。
本編では、ゴン達よりも先行してこのクイズに挑戦し、母親はこの世にたった一人、恋人はまた見つけりゃいいとして①を選択、不正解となり、悲鳴を上げることになってしまったモブのハンター志望者がいたが、はたして彼の選択が本当に不正解だったと誰に言い切れるだろう。
いつか選ばなくちゃならないときが来る。
HUNTER×HUNTERはとても大切なことを私達に教えてくれる。
そんな感じで、ゴン達のハンター試験は続いていくわけだが、私も来るべき時に備え、ハンターという仕事についてもっと調べておこうと、ネットで検索してみたところ、……え、専業猟師の平均年収って220万円から260万円なの?
………………。
あ、でも、レオリオが言ってたっけ。ライセンスカードは売るだけで7代遊んで暮らせるといわれているんだって。
そもそも私の将来の夢は、薄給となる可能性が高い第二志望のため、とりあえず高給取りな第一志望の職業について貯金し、それから第二志望の職に就いて、高給時代に貯めたお金を生活費に充てる、こうして好きな仕事を一生続けていこうじゃないかという、ちょっと変則的なものだった。
じゃあ、まずは私もハンターになって、ハンターライセンスを売ればいいんだ。
HUNTER×HUNTERを読んで学んだ通り、ハンター試験に合格するため、ハンターたるに相応しき強き体と心を鍛え、PAPER×HUNTERになりたいと私は思った。

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