巨人が跋扈するこの世界で、人類は50mの壁に守られた街の中、かりそめの平和を謳歌していた。だが、100年続いたその平穏は、一匹の超大型巨人の出現により、あっけなく破壊されてしまう。
蹴り開けられた壁の穴から次々と入ってくる巨人たち。エレンとミカサは母さんが待つ家へ走った。目に映るのは、飛んできた壁の破片に当たって、倒壊した我が家。
母さんは瓦礫に足を潰され、身動きが取れなくなっていた。
早く一緒に逃げよう! オレが担いで逃げるよ!
自分を置いて逃げなさい、と言い聞かせる母さんを、必死に助け出そうとするエレンとミカサ。
そこにズシン、ズシン、巨人の足音が近づいてくる。
駐屯兵のハンネスさんが駆けつけ、巨人と戦い、全員を救うべきか、子供たちを連れて逃げてという母の願いを聞き入れるか、究極の選択を迫られる。
けど、実際に巨人を目の当たりにした途端、怖気をふるったハンネスさんは、エレンとミカサを担ぎ上げるとその場を速やかに離脱する。
母さんは、ありがとう、エレン、ミカサ、生き延びるのよ。
そして、ベキベキ、パキパキ、母さんは巨人に食べられてしまった。
巨人が目前に迫ったとき、母さんの脳裏にいつもの家族の食卓がつと過り、行かないで、思わず出てしまった声を、口に手を当てて押し殺す姿が、とても印象に残った。
世の母さんたちはいざとなったらみんな、このようにふるまうことができるのだろうか。いや、さすがにみんなはムリだろう。てか、もしも私が将来母さんになることがあれば、たぶんムリ。助けて、行かないで。泣き叫ぶこと必定。私は、エレンの母さんは偉大だ、と尊敬の念を抱いた。
避難する船の上で、エレンは母さんを想った。
『もう…あの家には…二度と帰れない。どうして最後までロクでもない口ゲンカしかできなかったんだ!! もう…母さんはいない!! どこにもいない…。どうしてこんな目に…。人間が弱いから? 弱いヤツは泣き喚くしかないのか!? 駆逐してやる!! この世から…一匹…残らず!!』
世の子供たちはみんな、いざ母さんを殺されてしまったら、このように思いつめることができるだろうか。いや、さすがにみんなはムリだろう。てか、私にはたぶんムリ。泣き喚くしかないこと必至。エレンはすごいな、と私は感銘を受けた。
ところで、このときエレンに芽生えた憎悪という感情が、正しいものなのか正しくないものなのか、私にはよくわからない。
愛情が深い奴ほど、憎しみもまた深いとはいったいどの里の忍の言葉だったか。某一族同様、エレンもまさにその典型って感じ。
エレンは巨人への憎しみの気持ちから報復を誓った。報復は新たな憎しみを生み、憎しみはさらなる報復の芽を育て、負の連鎖は続いていく。堪えねばならんのだよとは、はたして何教の師父の教えだったか。傷の男同様、エレンも堪えることはできなかった。
これだけだと憎悪や報復はやはり悪だと感じられる。けど、私にはそうとばかりも言い切れない。なぜなら、憎悪して、報復しなければ、やられっぱなしになるじゃないか。相手はどんどん増長して、また仲間がやられるじゃないか。
本当は報復なんてしたくない。でも、監督が、チームメイトたちがそれを望んでいるから、空気を読んで、報復死球を投げなきゃならない。そんなピッチャーを一概に悪だと断じることがいったい誰にできるというの?
戦争がなくならないのも、きっとこんな感じなのかなと私は思う。
愛する家族を、仲間を、守りたい。
けれど、それって、実際に命を懸けて戦場で戦っている人たちの想いであって、安全なところから戦争を指示している人たちは何だか違うって感じてる。
だって、どんなきれいごとを並べたって、利権だとか、成果だとか、相手が気に食わないからだとか、自分の都合ばかりで戦争をしているふうにしか私には見えない。死ぬのは自分じゃないから戦争しているのだとしか私には思えない。
だけど結局は、そんな人を選挙で選んでしまう私たちが悪いんだろうか。たとえ、私がその人やその人の政党には投票しなかったとしても、連帯責任があるんだろうか。
そもそも、誰に投票したところで、脱税、収賄、裏金……、誰もが何らかの不正を働いている。たぶん、そうしないと現在の地位を維持したり、より高みを目指すことが不可能なシステムになっているのだろう。
腐敗し切った与党に鉄槌を下し、政権交代を! とは言ってみても、政権運営などやったこともない野党がまともな運用などできるはずもなく。最悪Aに投票するか、最悪Bに票を投じるか、そんな選択肢しか存在しない。
だったら、白票するのみなのだけど、これはただの無効票としてしか伝わらず、無効票を投じるってことは、多数決の決定に異議なしってことでいいんだよね? そんなふうにしか受け取ってもらえない。
みたいな。
あれこれ考えてしまうと、はぁ、はやく18歳になりたくないな。
おっと、話が逸れてしまったけれど、そう憎悪からの報復からの戦争だ、何も同じ人間同士で殺し合いをしなくったっていいじゃないか。目の色や肌の色、信じる宗教が違ってたって、同じ人間なんだから。『あゝ、マヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいゝやうに早くこの世界がなりますやうに、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまひません』と祈っていたのは、どこの少佐だっただろう。たしか、白銀とか赤い彗星とかではなかったはず。
とはいえ、この点、エレンにストレスは少ないかも。だって、報復の相手は巨人である。訓練兵団の教官が教えるに、巨人には人間のような知性は確認されておらず、だったら、巨人によって憎しみや報復の連鎖が続く心配はない。自分たちとは違う生き物だからって、必ずしも殺していいとは思わないけれど、同じ人間同士で殺し合うよりは、精神的な負担は軽減されるに違いない。
そんなこんな、ウォール・マリア陥落から5年。
兵士となるための訓練期間を終えたばかりのエレンは、さっそく、巨人に報復する機会を得る。ここから人類の反撃が! エレンの八面六臂の大活躍が始まる!
……かと、期待に胸を膨らませながら、ページを捲っていくと、あれ? エレン、いきなり足食われたし!? どころか、今まさに巨人に飲み込まれんとしている親友のアルミンを助けるため、自ら巨人の口の中に飛び込んでいったし!? 手、バクッって食いちぎられたし!? いやいや、もはやエレンごっくん丸飲みされたし!? そして、第2巻へ続く。
まじか!? 続きが気になり過ぎる!? と私は思った。

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