走れメロス【太宰治】の読書感想文【一生、友達できる気しない】

短い本は怒られそう

走れメロスを友情の物語として読んだ。メロスは邪智暴虐の王ディオニスに物申す。ディオニスは人間不信で、妹婿、自分の子、妹、妹の子、皇后、賢臣などを次々と殺してきたからだ。王に逆らったメロスの処刑が決まる。しかし、メロスには結婚式を間近に控えた妹がいて、親友であるセリヌンティウスを人質とすることで三日間の猶予を得る。

人質にされたセリヌンティウスは文句ひとつ言わずに友を抱きしめ送り出した。メロスは災難に見舞われながらも、なんとか刻限までにセリヌンティウスの元へ帰ってきた。メロスは途中一度だけ、友を見捨てて自分が生き延びる誘惑に駆られたことを告白、セリヌンティウスも三日間のうち一度だけ友を疑ったと返す。二人は一発ずつ互いの頬を殴り、許し合い、改めて真実の友情を確認する。その姿を見たディオニスは改心、二人の仲間に入れてほしいと願うのであった。

私もメロスやセリヌンティウスのような友達が欲しいと、暴君ディオニスのように思ったが、しかし現実に真実の友情などといったものがはたして存在し得るだろうか。疑問を抱かずにはいられない。

まず、セリヌンティウス。勝手に人質にされたのに無言で頷き、それを受け入れる友情。いや、無理、激怒するし。だって、もしメロスが戻ってこなかったら、自分が死ななきゃならない。いろんな物語を読むに、友達のため命を懸けられることが真実の友情なのだと理解するのだが、自分の命が一パーセントでも失われる恐れがあるというのに他人のために動けるだろうか。考えてしまう。てか、メロスみたいな勝手な友達、実際いない? 待ち合わせの時間とか、十分、二十分くらいは遅刻だとは思っていなさそうな奴。約束の日にいきなり別の学校の友達との予定を被せてきて、人見知りな私にむかって「一緒に遊ぶのでいいよね?」だとか。はい、無理だし、激怒するし。

メロスはさらに言わずもがな。確かに自分の責任で友達の命を危険に晒してしまったのだから、それを助けるのは当たり前なんだけど、自分の命を犠牲にしてまでその行いができるだろうか、できる人が現実にどれだけいるんだろうか。思いを馳せずにはいられない。なぜなら、私にはできない。さすがに、平気で、とまでは言えないけれど、たぶん、我が身可愛さにセリヌンティウスを裏切るだろう。

つまり、真実の友情とは、呆れるほどの寛容さを示したセリヌンティウス、愚直なまでのひたむきさを持つメロスのような人物同士の間にしか成立し得ないもの。不信の塊であるディオニスのような、すなわち私のような人間には到底得られぬものなのではなかろうか。などと考えないわけにはいかないわけで。結論として、私には一生友達できる気がしない、となったのである。

そしてここにきて、真実の友情とは、真実の愛、くらい痛いことを言っているのではなかろうか、ということに気づいてしまう。結局のところ、真実の愛同様、真実の友情などといったものも物語の中だけにしか存在しない。そして皆、それをちゃんと承知した上で程よい人間関係を構築しており、真実の友情だとか言っちゃってる奴は世間に私一人くらいしかいないのではなかろうか、などと鑑みれば、なんだか勇者の如く赤面しそうになってしまう。

では、実際に実現可能で現実的な友達付き合いとは如何なものだろう? それはやはりギブアンドテイクの関係だろう。対等の関係だと言ってもいい。ふと思ったのは、例えば、運動神経が良く、サッカークラブに所属する○○さんと、運動できない××さんが親しい友達同士といった姿を学校内で見たことがない。もし二人が同じグループにいたとするなら、後者は運動はできないが剽軽であるなど、所謂、弄られ役である場合がほとんどのように思う。つまり、××さんは体育などで貢献できない代わりに、笑いを提供することで同グループ内での生存権を獲得しているわけだが、やはりサッカークラブのツートップで親友同士の○○さんと□□さんの関係に比べたら、些か見劣りするように見受けられる。そして、これは物語の世界でも同様。主人公は仲間を助ける力を備えている場合が多く、助けられた仲間だって何らかの形でその後主人公を助けている。すなわち、ギブアンドテイク。

走れメロスにおいても、メロスのひたむきさとセリヌンティウスの心の広さがうまくかみ合っていて、互いに与え合える関係を築けているように感じた。要するに、現実的に友達を作るには、まず自分が与えられる人間になること。メロスのような友人が欲しければ、セリヌンティウスのような心の広さを身につけなければならない。わけなのだが、ここまで書いてきて生来の心の狭さを露呈している私にそれは非常に困難なように感じられてしまい、読書感想文の常套句である○○○○○○○○(登場人物の名前)のように私もなりたい、といった当初の予定の締めが使えなくなってしまったのだが、どうしよう。

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